第1回 ハーバード大学研究員が語るSDGsの今(前編)

トップ候補1

気候ファイナンス

モルガンスタンレー持続可能な投資研究所CEOのオードリー・チョイ氏は、気候変動は全ての産業に関係のあるテーマであり、もはや無視できないビジネス上のリスク要因であると強調した。​​アメリカ証券取引委員会の新しい規制にも触れ、これは排出量がビジネスにとって重要であることを示唆しており、投資家は、今後判断材料となる透明なデータなしに投資を行おうとは思わないだろうと述べた。

また、多くの企業が表明している2050年ネットゼロ宣言については、2050年というのは非常に先であり、投資家自体もそれだけの長期の時間軸には慣れておらず、かつ、そこに至る道筋もまだ明らかではないが、少なくとも目標到着地点を表すものとして評価されると指摘した。最後にチョイ氏は、気候変動問題の解決には、自動車、建設、消耗品、消費者の行動などセクター横断での経済全体のアプローチが重要であることを強調し、「持続可能な地球をあらゆるセクターで考えることで、金融は経済全体で機能する機会を持つことができる」と述べた。

アメリカの気候変動対策

ホワイトハウス国内気候政策室の国家気候アドバイザーであるジーナ・マッカーシー氏が、バーチャルスピーチで登壇した。

マッカーシー氏は、バイデン政権が気候変動政策を180度転換させたことに触れつつ、クリーンエネルギーの未来においてアメリカがグローバルに果たす役割の大きさを主張した。また、ロシアのウクライナ侵攻にも言及し、「世界のエネルギー安全保障への唯一の道はクリーンエネルギーだ。それ以外に選択肢はない。」と述べた。

また、2021年はクリーンエネルギーの配備において最大の年であったとしつつ、アメリカオフショア風力の立ち上げや地域での太陽光発電の導入の補助やEV政策を紹介した。そして、学校や職場で気候変動対策を組織的に行い、気候変動対策を掲げた大統領を選出したこと、明るい未来を実現するために必要な提言活動や研究、イノベーションの面で継続的に努力することを若者たちに呼びかけ、若者たちがふさわしい未来を手にするために活動しているとした。

再生可能エネルギーの拡大

再生可能エネルギーに関するパネルでは、再エネの増加に向けた課題として、送電線の統合や配電の問題、また昨年成立した「ウイグル強制労働防止法」[4]により、中国産のシリコン系の太陽光パネルの輸入が減っており、アメリカ内での生産能力を強化する必要があること、などが挙げられた。

なお、パネリストの一人、ACCIONA Energy[5]の北米支社CEOは、この点について、現在、アメリカ内での生産強化のために関税措置が取られているが、それでは国内産業が競争力のある形で成長しないとの指摘をした[6]。これに対して、元連邦エネルギー規制委員は、政策にはトレードオフがあり、貿易措置もまたアメリカの経済成長や人権問題への対応策として取られており、気候変動政策と貿易政策のトレードオフを十分吟味する必要性について指摘をした。

また、アメリカアメリカでの太陽光パネルの製造と関連して、 次世代の新規太陽電池として期待を寄せられているペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて、アメリカアメリカが主導的な役割を果たす可能性について触れ、新しい技術に必要な製造技術の向上について議論した。最後に、2050年のエネルギー分野は高度に分散化されたシステムへと移行し、消費者は電力供給を決定する上でより大きな影響力を持つようになるだろうという点で意見が一致した。

MITでの取組

MITの研究担当副学長であるマリア・ズーバー教授による基調講演では、核融合、減農薬・無肥料化の農業工学、水素インフラ、原子力電池という、脱炭素化への4つの重要なソリューションについて説明があった。

この他、パネルセッションとしては、「水素エコノミーの展開」「ストレージ」「グリッドの近代化」「CCUS」「次世代原子力」のエネルギー技術のパネルに加え、「産業部門の脱炭素化」「持続可能な開発のための官民混合金融の役割」「気候変動技術とベンチャーキャピタル」「公正なエネルギー移行」の幅広いテーマのパネルが行われた。

ピッチコンテスト

MITエネルギー会議の閉会式では、気候変動問題に取り組むスタートアップを立ち上げるために大学生を支援する、気候&エネルギー賞の10万ドルピッチコンテストの決勝戦が行われた。牛や酪農場からのメタン排出量を削減する「Muket」、種子のコーティングに窒素固定微生物を組み込み肥料を減らす「Ivu Biologics」、発電所等で使用されるコンデンサー[7]を効率化する「Mesophase」、電力購入契約の採用を促進する「Terratrade」、水の代わりに超音波を使って掃除する衣類洗濯機と乾燥機を組み合わせた「Ultropia」の気候・エネルギー関連スタートアップ5社が、審査員に自社のビジョンとビジネスモデルをアピールし、Ultropiaが10万ドルの大賞を獲得した。

総括

この会議は上述の通り、アメリカで学生主催の最大規模のエネルギー会議であることもあり、エネルギー企業や金融機関、スタートアップからのスピーカー登壇依頼が後を立たない。

各企業もMITの会議にて自社の取り組みをアピールする場として、この会議を戦略的に捉えている様子がうかがわれた。また、1日目の会議終了後には、スタートアップのショーケースが引き続き行われたり、参加者の夕食兼交流の場が設けられており、ネットワーキングの場として機能している。日本以上にネットワーキングが重視されるアメリカにおいては、皆非常に積極的にネットワーキングを行い、会議中も、外で話し込んでいる参加者も多く見られた。

上記では、会議の一部の紹介にはなるが、アメリカの気候変動・エネルギー周りでの最新の議論が少しでも伝われば幸いである。

>>「第一回 ボストンに学ぶSDGsの今!(2/2)」はこちら

[1] コンテンツディレクターとは、会議のコンテンツに責任をもつ立場であり、筆者は、アメリカ、カナダ、バングラディッシュ出身の3名とともに、会議のコンテンツの統括を行い、キーノートスピーカーの招聘やパネルディスカッションのテーマ決め、パネル担当者のマネージメント等を行った
[2] 航空機の燃料であるケロシンに比べて、3分の1の軽さである一方、4倍の容量がある
[3] 「CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」が世界で初めて取り組む、液化水素の海上輸送試験
[4] なお、米国の太陽光パネルの輸入については、以前から貿易措置が取られており、その影響で中国からの輸入量は大幅に低下しており、上記法律(及びバイデン政権の一部ウイグル企業への制裁措置)の影響については議論の余地があるとの意見もある(CSIS,2021)
[5] スペインの再生可能エネルギー事業者
[6] 米国では、同社も加盟する太陽エネルギー産業協会は、太陽光発電の導入を遅延させるとして、貿易措置に反対の立場をとっている。
[7] 電気を蓄えたり、放出したりする電子部品

投稿者

  • チームSDGs

    伊藤麻純 // 2021年より、経済産業省からMITの修士課程に留学中。MIT Energy Conference 2022のコンテンツディレクターを務めた。経済産業省では、気候変動・エネルギー・通商・教育・ワクチン政策等に従事。

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