「気候変動問題」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?グリーンハウスガス?異常気象?世界のトップ研究機関が議論している“気候変動の今”をボストンのトップスクール在籍の皆さんに語って頂きました。
第一回は「MITエネルギー会議2022」のコンテンツディレクターを務めた伊藤さん、ハーバード大学ウェザーヘッド国際問題研究所・客員研究員の光岡さんによる寄稿です!
MIT エネルギー会議
2022年3月31日、4月1日に開催された「MITエネルギー会議」には、アメリカ内外から多くのテクノロジー、ファイナンス、アカデミア、政策分野のリーダーらがマサチューセッツ州・ケンブリッジのマリオットホテルに集まった。
500人を超える参加者が現地で出席し、オンライン参加も含めると900人を超えた。講演者の顔ぶれは豪華で、70名以上の講演者が2022年の会議のテーマである「Accelerating the Clean Energy Transition(クリーンエネルギーへの移行を加速する)」について各々の専門の観点から見解を述べた。
「MITエネルギー会議」は、MIT Sloan School of Management (MITスローン経営大学院)の学生団体の一つである「MIT Energy and Climate Club」が運営する会議である。アメリカ最大規模の学生運営によるエネルギー会議であり、50名程度の学生が運営に携わるが、筆者はコンテンツディレクターの一人としてこの会議に従事した[1]。
エネルギー一辺倒からエネルギー・気候変動へ、そしてダイバーシティ
上述のMIT Energy and Climate Clubは、今年1月に、従来のEnergy Clubから気候変動を入れたEnergy and Climate Clubと改名された。同クラブは、「エネルギーと気候変動という2つの広範な分野の融合にふさわしい名称となった」と説明しており、現在のトレンドを踏まえた新しい名前となった。
上記を踏まえ、MITエネルギー会議チームとしても、アジェンダやスピーカーの構成の半数を気候変動、半数をエネルギーとし、上記トレンド踏まえた内容とした。
具体的には、国際エネルギー機関(IEA)の事務局長のファティ・ビロル氏を迎える一方で、ホワイトハウスで国内気候変動政策を統括するNational Climate Advisorのジーナ・マッカーシー氏やモルガンスタンレー持続可能な投資研究所のCEOを招聘し、両者のバランスをとった。
また、スピーカー招聘に当たっては、ダイバーシティが重要な価値基準となっているアメリカらしく、人種・男女比等において、ダイバーシティを実現する形にこだわった。基調講演者は、5人中3名が女性であり、また、5人中2名がPOC(有色人種)である。一部のテクニカルなエネルギー分野では、多くの専門家が白人男性であり、ダイバーシティの維持がなかなか難しい場面もあったが、結果的にほとんどのパネルにおいて、多様性に富んだスピーカー構成となった。
クリーンエネルギーへの移行の加速
今年のテーマは、冒頭でも述べた通り、「クリーンエネルギーへの移行の加速」であり、IEA事務局長のファティ・ビロル事務局長は、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえたエネルギー情勢について述べた。
ビロル氏は、ロシアが石油と天然ガスの最大の輸出国であるという事実により、ウクライナ侵攻が今日のエネルギー・気候変動の状況を大きく変えており、特に、今後数カ月の間に、ロシアからの石油・天然ガスの供給減少を補うために欧州諸国が大きな努力をしなければならないことを指摘した。
また、IEAが、世界の石油ショックを軽減するために、加盟国と協調して戦略的石油備蓄を放出していることなどを紹介した上で、他国での生産増加や備蓄放出では不十分であり、どのようにして短期間に石油の需要を減らせるかが重要であると述べた。
また、天然ガスについては、その45%をロシア産の天然ガスに依存している欧州にとって深刻な問題であり、政府は、次の冬季に向けて準備すべきであると述べた。具体的には、ノルウェーなど他国からのLNG輸入を増やすとともに、再生可能エネルギーの増加、省エネの徹底、そして原発廃止の延期などが提案された。
さらに、ビロル氏は、エネルギー安全保障が最も重要であるとしつつ、それと同様に重要な気候危機について、IEAが2050年ネットゼロロードマップを出したことや、クリーンエネルギー技術として再エネやEVの普及、原子力への期待等について述べた。そして、最後にインド政府の政策が注目を集めている(※インドは、ロシア産の石油を安価で購入している。)ことに言及し、各国政府が正しい方向へ舵を切ることが重要であると講演を締めくくった。
ゼロエミッション航空機と水素
エアバス社のゼロエミッション航空機担当副社長グレン・ルウェリン氏は、ゼロエミッション航空へのビジョンを語った。
ルウェリン氏は、2030年代、2040年代には、気候変動への影響がない航空機のみが許容されるようになると考えており、同社は2035年までのゼロエミッション航空機の就航を目指している。その実現に向け、ケロシンに変わる燃料として、水素は経済的な航空機用燃料であるが、航空機への液体水素[2]の貯蔵など、克服すべき技術的な課題が多くある。また、水素によるゼロエミッション航空が現実のものとなるためには、規模の経済を実現するための水素エコシステムが必要であると強調した。ルウェリン氏は、日豪間での液体水素を輸送プロジェクト[3]について言及しながら、日本はこの分野で先進的であり、世界でこのようなプロジェクトがもっと行われていく必要がある、と述べた。
投稿者
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伊藤麻純 // 2021年より、経済産業省からMITの修士課程に留学中。MIT Energy Conference 2022のコンテンツディレクターを務めた。経済産業省では、気候変動・エネルギー・通商・教育・ワクチン政策等に従事。