日本のコンピュータサイエンス分野の遅れ
IoTやAI…ネットはもちろん、新聞やTVでもこれらの文字を見ない日はありません。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)をはじめとして、スタートアップ、大企業に関わらず、世界中の企業がこのキーワードを中心に回っているように見えます。
一方で、日本はこういったコンピューターサイエンス分野で世界に遅れをとっている感があります。東京工業大学・梶川教授によると、トップ10%の論文(被引用回数が上位10%に入っている論文)を分析したとき、日本の存在感がないことは明らかだと言います。論文数では、中国とアメリカが他を圧倒的に引き離しているのですが、日本は中国どころか韓国や台湾に比べても半分ほどしかないそうです。
現時点でデータサイエンスの世界はアメリカを中心に動いています。そこから波及する情報は99%が英語で、欧州でもそうした情報や教材を英語のまま使い回しています。またそういった英語圏では、接点を持てるネットワークや企業の幅広さも数段大きいです。アメリカの大学が開くキャリアフォーラムには名だたるグローバル企業がブースを出し、青田買いをしてくれます。世界大学ランキングに載るような名の知れた大学を修了できると、いろんな国の企業をキャリアパスの選択肢に含めることができます。
実は、この分野で日本が周回遅れになるという傾向はかなり前からありました。日本の高等教育、科学技術政策を振り返ると、1950年代、60年代に理工系人材、なかでも重厚長大産業である鉄鋼や化学、機械などの産業を学ぶ学生が増えました。それが80年代の日本で、自動車や半導体などの産業を支えたわけですが、一方アメリカはその頃、急速にコンピューターサイエンスを強化していました。70年代から80年代を通じてコンピューターサイエンスを学ぶ若者の数を4倍にしたアメリカに対して、日本ではコンピューターサイエンスに特化した研究科はほぼゼロ。その遅れを今でも取り戻せていない、というのが現状です。
これから日本のコンピューターサイエンスを盛り上げていくために、どのような取組が必要なのでしょうか。今回はその一つのヒントとなる、女性/ノンバイナリー(自分の性認識が男性・女性という性別のどちらにもはっきりと当てはまらない、または当てはめたくない、という考え方) 人材×コーディングをテーマにしたボストン流コーディングキャンプをご紹介します!
ボストンのコーディングキャンプコミュニティ
インディラ・イネスさん(16歳)は、2週間のコーディング・ブートキャンプに参加するために、インドネシアからはるばるボストンまで足を運び、夢を実現させました。Kode with Klossy(コード・ウィズ・クロッシー)のコーディングサマーキャンプに参加することは、彼女の小学6年生の時からの夢でした。
Kode with Klossyは、13歳から18歳の女の子とノンバイナリーの子供を対象とした無料のコーディングキャンプであり、モデルで起業家のKarlie Kloss(カーリー・クロス)氏が創設した2週間のプログラムです。今年は、8月5日にボストンのWeWorkで、成果物を発表するDemo Day(デモ・デイ)を開催しました。
「母国では、女子が技術分野で活躍できる場があまりありません。このキャンプに参加することは本当に貴重な機会だと思います」とイネスさんは言います。
Kode with Klossyは2015年に設立、2016年にサマーコーディングキャンプを開始し、2018年には開催地をボストンに移しました。
今年のサマーキャンプは、ボストンのダウンタウンで25人の女の子たちとノンバイナリーの子供たちを受け入れました。プログラムではまず、HTML、CSS、JavaScriptの使い方など、ウェブ開発の基礎となる技術的なスキルを学びます。その後、これらのスキルをミニプロジェクトに応用し、成果物を仲間に発表することで、技術的なスキルだけでなく、人前で話すスキルも鍛えられます。
また、この2週間で、「カルチャー・オブ・テック」シリーズと名付けられた一連のディスカッションも行われ、マイノリティー人材であることが技術分野、テック界においてどのようなものであるかを話し合います。ゲストスピーカーとして、この業界で活躍する女性やノンバイナリーの方々から話を聞くこともできます。
同社によると、このキャンプは現在、米国の15都市以上で開催されているほか、アジアとヨーロッパで、完全バーチャルのプログラムも実施されています。プログラムへの参加は無料ですが、応募が必要です。
キャンプに参加する学生の大半は、コンピューターサイエンスの経験がありません。同社によると、そもそもコーディングの経験がある学生は、10人に2人に過ぎないといいます。しかし、キャンプに参加した卒業生の10人に9人は、コンピューターサイエンスの教育や機会をもっと受けたいと答えているそうです。
プログラム終了後も、卒業生たちは「Geneva」と呼ばれるオンラインプラットフォームを通じてつながりを保つことができ、「Geneva」では年間を通じてイベントが開催されています。
ニーダム高校の15歳の生徒、リア・ワンさんは、Kode with Klossyが、他では得られないようなコミュニティを提供してくれたと話します。
「私の学校では、コーディングを学ぶのは男性が多いので、孤立しているように感じていました。このコミュニティに参加したことで、同じような考えを持つ女の子たちに出会うことができました。」とワンさんは語ります。
ワンさんは高校のディベートチームのキャプテンでもあり、Appleが運営するコーディングコンテスト「Apple Swift Student Challenge」で今年初めに優勝しています。
参加学生は、教員免許を有する講師から指導を受け、Kode with Klossyの設立パートナーであるWeWorkで、2週間のフルタイム勤務を行いました。
Demo Dayには、コーディングを行う若者たちの両親も参加します。参加した学生たちは、3日間かけてチームで開発したWebサイトを発表します。
このWebサイトは、金融リテラシー、サステナブルファッション、メンタルヘルス、人種的多様性など、さまざまなトピックに及んでいます。全ての発表に共通しているのは、社会的なアドボカシー(社会的に弱い立場にある人たちの権利を守る/主張を代弁する行為)の存在です。同社によると、全キャンプの奨学生の75%が有色人種であることから、これは驚くべきことではないかもしれません。
発表の間中、会場は笑い声とハグで賑わい、卒業式は涙を流しながら、心からのハグで締めくくられました。
今回は、ボストンのコーディングキャンプコミュニティとそこで挑戦する女性たち/ノンバイナリーの方々についてご紹介しました。如何だったでしょうか?本サイトではボストンで話題のニュースや「私も一歩踏み出してみよう」と思える、挑戦者の行動を後押しする記事をご紹介しています。ご質問やご意見あれば、是非お問い合わせフォームをご活用ください!!記事が良かったらシェアをお願いします!
引用
BostonInno「Coding summer camp in Boston, a ‘dream come true’」
POLICY DOOR「日本のイノベーション力を高める」
日経ビジネス「AI教育で後れを取る日本の進むべき道」
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