今回は世界最高峰の大学であるマサチューセッツ工科大学(以下、MIT)で博士号を取得し、そのままボストンで現地就職をして研究者として活躍されている吉永さんにインタビューしました。ご自身の経歴や、今後のキャリア、Ph.D.人材の企業での活用方法などをお聞きする中で、今後の日本での人材活用に非常に示唆のある話を伺うことができました。それでは早速お話を伺っていきたいと思います!
吉永宏佑
ボストン郊外にある、フランスの建築系企業・SAINTGOBAIN(サンゴバン)の研究所で、研究者として勤務。大学卒業後に大学院進学のため渡米し、マサチューセッツ工科大学(MIT)で化学Ph.D.博士号を取得。
<ご本人記事>
「もはや有機ではない有機材料化学:フルオロカーボンに可溶な材料の創製」– MIT・Swager研より/Chem-Station
まずは簡単に自己紹介をお願いします。
吉永宏佑です。現在はボストン郊外にある、フランス企業であるSAINTGOBAIN(サンゴバン)の研究所で研究者として働いています。会社は主に建築関係で、例えば住居の屋根や窓ガラスなど、その他身近なものではマクドナルドのトレイに敷かれている紙のコーティングなどのちょっとした部品や素材を作っている会社です。
日本の大学卒業後、なぜPh.D.を取るためにアメリカに行かれたのでしょうか。またその中でMITを選ばれた理由を教えてください!
アメリカでの大学院進学にもともと興味があって、最先端のものを学びつつ、英語も少し勉強して、将来仕事で使いたいなと漠然と考えていました。ちょうどその時に、大学に世界的に有名な先生がいて、その先生が海外大学院いいよ!とすごいプッシュをしてくれて、それがきっかけで実際にチャレンジしようかなと思いました。
また、最終的にMITを選んだ理由は三つあります。
一点目は研究内容。他の大学ももちろん面白い研究やっているのですが、化学を用いて物を作ることに興味があった自分からすると、MITの研究が一番マッチしていました。
二点目に先生の指導方針。入学後は先生と5年間一緒に研究することになるので、研究室の運営の仕方や、研究を進めるスタイルが、自分が過ごせそうな環境かというのを見て、MITが良いなと思いました。
最後に三点目は、ボストンという街を見学して、そのアットホーム感がすごく良かったからです。ボストンにはハーバードがあり、MITがあり、ボストン大学があり、世界的に有名な病院などのメディカル関連のエコシステムなどもあって、さらにそれらの組織の共同研究が非常に盛んな町で、見学してみて自分もそのコミュニティに加わりたいなという思いが芽生えました。
Ph.D.を取られた後に、ボストンで民間企業への就職を選ばれたのはなぜでしょうか?
自分は元々、企業での研究に興味があって、大学の教授になることはあまり考えてなかったですね。理由としては、研究を通して身の回りにあるものを作りたいなと思っていたからです。コマーシャライザーションに重きを置きたかったという思いがありましたね。それはやっぱり大学ではなく企業じゃないとできない研究だと思うので、自然と民間企業への就職に興味がありました。
その中でも、ボストンはすごく研究が盛んな場所なので、研究を通じたものづくりへのアウトプットが早いなと感じました。研究をスムーズに製品化するプロセスとそのエコシステムが出来上がってるというのを感じたので、大学院卒業後ももう少しボストンにいたいなと思いました。
Ph.D.を取る前から、ものづくりで身の回りのコマーシャライゼーションに貢献していきたいという目標を決めていたということですが、それはPh.D.の方々にとってメジャーなキャリアパスなのでしょうか?
結局、人によります。もちろん大学の教授を目指している方もいっぱいいますし、最初は教授を目指していたけど、結局は企業に行った人もいるし、Ph.D.は取るけど、そもそも研究職につくわけでもないと思っている人もいますし。だからキャリアパスとして、例えばコンサルを目指している人も中にはいました。
自分の場合は入る前から、企業での研究に興味があって、Ph.D.終えた後も結局、企業での研究に興味がありましたが。
実際、日本とアメリカでPh.D.のキャリアパスに違いってあったりしますか?
肌感だと結構違うと思いますね。本当にアメリカは自由です。企業に行きたい人は企業に行くし、コンサルタントになりたい人はコンサルタントになるし、金融に行きたい人は金融に行くし、自分で会社たち上げたい人は自分で会社立ち上げるし、本当に選択肢が多いと思います。
一方で、日本の同級生の話を聞く限りだと、決して悪いことではないのですが、卒業した後、ポスドクになるか化学メーカーに進む人がほとんどでしたね。なので、例えばPh.D.を取った後コンサルに行く人は少ない気がします。
その違いの背景にあるものは何だと思われますか?
アメリカ社会において、Ph.D.が一つのすごい称号として見られているということがあるかなと思いますね。
例えばコンサルに行くにしても、企業でも、Ph.D.を持っていると、普通の学部を卒業して入社する人より上の役職が用意されます。Ph.D.を持っていることによって期待されるというか。逆に日本だと、Ph.D.が果たして仕事に生きるのかということを疑問に感じてしまう人がたまにいるような印象を受けますね。だからこそPh.D.が大事にされる化学品メーカーの研究者か、ポスドクか、そういった道に自然と絞られてしまっている感じはします。
MITってアメリカの中で最高峰の大学ですが、今のPh.D.の学生達の中でどういうキャリアパスがトレンドなのでしょうか?
MITもしくはボストンが特別かもしれないんですけど、スタートアップへの就職が非常に多いと思いますね。それも研究者として、スタートアップの技術開発に携わるということが多いです。
自分もスタートアップへの就職に興味がありました。エントリーはしたのですが採用はされなくて、結局割と大手なところに就職してしまったんですけど。
大手に就職してしまった、みたいなニュアンスが出たんですが、それぐらいPh.D.からスタートアップに入ることはクール、というか一つのトレンドみたいなものなのでしょうか?
トレンドであることは間違いないですね。仮に優劣つけるとしたら、別に大手に行くことが必ずしも評価されるわけではなくなっていると思います。
一方で大学教授になりたいという方はどれぐらいの割合でいらっしゃるんですか?
自分の肌感だと半々くらいですね。結構多いと思うんですよね。
日本だったら、ポスドクになろうとする人が多分2,3割ぐらいかなと思うんですけど、アメリカはやっぱり大学も多いので、純粋に大学で研究がしたいんだっていう思いがあれば、かつ場所を選ばなければ、割と教授になるというのは叶いやすいかなと思います。
日本だと大学をちゃんと選ばないといけない、かつ、ポストが限られているので、競争も激しい印象を受けます。
Ph.D.卒業後企業でご活躍される方って、イメージでは技術系、理系の方が多いと思うのですが、一方で経済学や心理学、社会学など文系でPh.D.を取られてる方も、企業で活躍できる場がアメリカでは揃っているんでしょうか?
揃っていると言いたいんですけど、実例を知らないのでちょっとわからないです。
例えばFacebookに就職した友人の話だと、スキルさえあればそれで待遇が良くなったり、それを生かして会社に就職したりもできるみたいですけど。
だから文系でPh.D.を取っている人でも、会社で求められているスキルを持っていたら間違いなく優先順位が高くなると思います。
吉永さんがPh.D.を取られるときに専攻されていた研究分野と今のお仕事って、結構マッチするものってあったりしますか。
正直言うと、マッチはそこまではしてないですよね。アメリカの就活って割と結構ピンポイントでの採用が多いです。
例えば「この研究したことがある人が欲しい」という感じで求人が出るのですが、本当にそれにピッタリ当てはまることはないので、何かしら自分がかぶってそうな分野があったらそれに応募するような感じでした。結果、自分の専門と仕事で求められている専門が、多分そこまで合致はしていないですが、会社で専門的に化学が分かる人として頼られることも多々あるので、それを見越して採用されたのだと思います。
吉永さんがアメリカで就職をしようと決められたときに、いつぐらいから就活を始めたのでしょうか?
卒業の1年前ぐらいですね。卒業が5月だったので、1年前の5月。
大体アメリカは9月から学期が始まって、そのタイミングで、オンキャンパスでのリクルーティングが始まります。企業が大学に来て、実際にその企業の説明会をしたりして。面接受けたい人は予約を入れて、実際に面接をして…みたいな感じです。
一つ日本と違うのは、「就活シーズン」みたいなのがなくて、空きが出たから人が欲しい、というような企業それぞれのサイクルがあります。もちろん学生はみんな大体卒業時期が一緒なので、そのタイミングで動くことが多いんですけど、全部がそうとも限らないという感じですね。自分はまさしくそのサイクルから外れた例で、結局就活が少しうまくいかなかったので、5月での卒業を諦めて、9月に卒業しまして、11月に就職をしました。
卒業時期を5月から9月に移したっていう話があったんですが、それって具体的にどういうことなのでしょうか?
卒業の時期は教授と相談してある程度自由に決められるというような形です。
目安は5年なんですけど、例えば論文の書き上げ具合とか、研究の進捗度合いによっては、4年で卒業する人もいますし、6年で卒業する人もいますし、多少フレキシブルに変更ができて。
自分の場合も、少し学生の身分を延長させてもらって就活を続けて、何とかそこで決まったので5月ではなくて9月に卒業することができました。
日本の企業も就職先の候補として見ていましたか?
なるべく日本を見ずに就活してました。
日本の企業からMITに来られている方の話を聞いたりして、日本での就活も少しは見据えてはいたんですけど、それは最終手段というか、なるべくアメリカに残ろうという方向では動いてました。
実際何社ぐらい受けられたんですか?また、そこからいろいろ面接のステップを踏まれていく中で、苦労されたのは具体的にどういう点でしたか?
まずアメリカの就活の仕組みを少し話すと、基本的に求人は全部ネットに載っているので、調べて自分で応募するか、もしくは自分の場合はLinkedInで調べて、自分ができそうな仕事に片っ端から応募しました。それで、最終的に応募したのが多分20社くらいで、実際に返事があったのは2、3社だけでした。
アメリカではコネが大事だという話を聞いたことがあるかもしれないんですけど、求人に応募する際に、既に会社にいる人に自分の履歴書を見てもらえるように手を回さないと、やはり次の面接のステップに進めないということが分かりまして。それが分かってからは自分も、応募をする際にその会社にMITの先輩がいないか、それもまたLinkedInで調べて、先輩がいたら連絡をしてみて、自分の履歴書を通してもらうというようなことをしましたね。
アメリカだと、MITでPh.D.を取得しているのに、自分からアクティブに動かないと面接のステップにも進めないというのは意外でした。正直、これは吉永さんが日本人だからでしょうか、それともアメリカ人であってもそうなんですか?
アメリカ人であってもだと思いますね。MITのキャリアセンターでのアドバイスを今、そのまま伝えたような感じです。アメリカ人であっても、うまくネットワークを作って、自分のプレゼンスを高めた方がいいよというアドバイスを受けました。
でもこの流れだと、逆にうまくいくところはすんなり決まるんですよ。実際にサンゴバンの就職は非常にスムーズでしたね。面接も2回とかで終わって、ほぼ採用みたいな形にはなりました。当たりを一発で引ければ、めちゃくちゃ就活スムーズだと思いますし、なかなかうまくネットワーキングできなかったら、10社20社受けてようやくっていうような形になりますね。
日本人としてアメリカで就職することに苦労はありましたか?
自分の場合は、幸いなかったですね。サンゴバンでも、別に日本チームに所属しているわけではなくて、国籍の壁は全く見られなかったです。
日本で今からPh.D.を取ろうかな、あるいは海外で取ろうかなって思っている人たちに、アメリカでPh.D.を取られた吉永さんからアドバイスをお願いします!
僕はアメリカでPh.D.とってすごく良かったと思うんですけど、全員がアメリカでPh.D.をとって成功できるわけでもないです。
結局大事なのは、自分がやっていて楽しいかどうか。研究を面白いと思えるような環境で頑張ることが、結局は大事かなと思います。要は自分がその後活躍できる場所を探すことができたら、それがベストなのかなと。それがアメリカで、よりチャレンジングな環境において自分に磨きをかけたいっていう人もいれば、日本の方が自分のパフォーマンスを出せると思う人もいるでしょうし。
やっぱり自分の実力が100%、120%出せる環境に身を置くことが一番大事かなと思います。
今後30代40代みたいなところで、どのようなキャリアパスを描かれていますか?
やっぱりより多くの製品を開発して、自分が携わったモノの数をどんどん増やして、例えば家族で食卓囲んだときに、これも俺が作ったんだよとか、そのテレビの部品を作ったんだよとか、なんかそういうこと話せたらいいですね。何か社会に役に立つものをたくさん作りたいなとは思っています。
もちろん、これが実現できるのが今後も同じ会社であるとは限らないと思います。転職されている方も結構多いので、自分も例外ではないとは思うのですが、ゴールは変わらず、やっぱりいろんなものをこれからも作っていきたいなと思っています。
ボストンは学術機関と企業のコラボレーションがすごく発展しているという話だったんですけど、日系企業の方が、ものづくり・イノベーションの観点で、ボストンから学べることってどんなものがあると思いますか?
変化を恐れないことだと思いますね。
いいモノをどんどん取り入れる環境、雰囲気がやっぱり大事だなと。新しいモノを生み出すということが研究だと思うので、それを取り入れるスピードが早ければ早いほど、より良いモノができると思います。
イメージですけど、日本の企業ってなかなか体制や中身を変えることが難しいところがあって、それをより良いと思う方向に、変えられるものはどんどん変えていく、という雰囲気が、ボストンから学べることなのかなと。
何か具体的に、上記でおっしゃっていたボストンの雰囲気と言ったときのイメージとか、それを感じた過去の体験はありますか?
例えばグループの運営方針とかについて、以前、Slackをラボに導入するかどうかという議論があったんですけど、最終的に、総合的に見てやっぱり導入した方がいいという話にまとまったので、使ってみて、実際にコミュニケーションがはかどったということがありました。このように、リスクは伴うけれどもいいと思ったものはどんどん取り入れられるような仕組みができたらいいなと思います。
イメージですが、例えば日本企業がslackを導入するとなると、実際導入したくてもすぐに導入できない会社も多いんじゃないかなって気がします。
今の「現場は導入したいけど、意思決定場所が違うから導入できない」に関連した話で、吉永さんがご経験された現場では、新しいものを取り入れていこうという意思決定ってどのようにされていたのでしょうか?
MITでは、もちろん最終決定権は教授にあるかもしれないですけど、ほぼ学生たちに運営は任されていました。学生でありながら、組織をマネジメントする力を身につけたり、グループを実際に運営してみたりする経験が得られたので、それはよかったです。
今いるサンゴバンの会社の話になると、意思決定が現場とは離れたところにあったりするんですけど、それでもやっぱりより良くしたいことがあれば、それを提案して実際に導入まで持っていくということは結構簡単にできるというか。あとはもちろん自由度が高いので、自分がいいと思ったものはどんどん取り入れることができる環境で働いています。
最後に、今吉永さんが働かれていて、企業側はどのようにすれば、よりもっとPh.D.の方を最大限活用できると思われますか?
自分の経験を通して思ったことは、自由と責任を両方与えることかなっていうような気がしますね。
自分は今、それこそPh.D .にいたときに近い環境で、研究目標があって、それを到達するためにいろんな方法を自由に模索して、っていう研究活動をできているので、この自由というのは大切かなと思います。一方で責任というと、例えば、役職を部長からスタートする、みたいな、何かポジション上の責任を持ってプロジェクトに取り組むことが重要かなと思います。Ph.D.の力を信頼して裁量権のある環境を渡すということですかね。
一方でPh.D.のこういう使い方は駄目だろう、みたいなものってありますか?
日本の企業に就職した友人の話で、結局一括採用と同じ部類で配属先を決められるということがあると聞きました。結局行きたいところに配属されない人も結構いるようです。
それももちろんその会社の方針なのかもしれないし、もちろん枠も限られていますから、東京に勤務したくてもできない場合もあるでしょうし、それでもやっぱり優先度を上げて、配属先を選ばせてあげることくらいはした方がいいような気がします。
今回はMITでPh.D.を取得し、ボストンで研究者として活躍されている吉永さんにお話を伺いました。如何だったでしょうか。質問やご意見があれば、ぜひお問合せフォームまで!記事が良かったらシェアをお願いします!
投稿者
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