自己紹介をお願いします
ロウ綾花と申します。10歳からアメリカ・ミシガン州で過ごし、大学卒業後の2016年にボストンに移ってきました。大学では心理学と生物学を専攻し、卒業後はそのまま大学院に進むことも考えましたが、ひとまずギャップイヤーを取得してボストンの研究室で働くことにしました。Ph.D.を取得するには6年程度かかるため、自分がそこまでやり切れるかを一旦確かめるためです。初めに就いたのは、ボストンのMGHラボのアシスタントの仕事で、そこでは主にがんの研究を行っていました。
MGHでの仕事の傍ら、個人で家庭教師の仕事も始めました。小学生から大学生まで幅広い年齢の生徒を受け持ち、特に英語が苦手な子どもたちの宿題のサポートをしていました。
口コミで次第に生徒が増えていき、家庭教師の仕事に割く時間を増やしたころから、JWLI(ジャパニーズウィメンズリーダーシップイニシアチブ)での活動も並行して始めました。JWLIとは、日本の社会企業家をサポートするプログラムで、フィッシュ財団という個人財団が運営しています。過去インタビューを受けられていたマイさんも参加していたものです。そこで私はアシスタントとしてプログラム運営をしつつ、ビジネスについて学んでいきました。
これらの経験を活かして、2018年に初めて自分のビジネスを立ち上げ、2019年からは本格的に、事業一本での生活を始めました。
起業されたビジネスの概要を教えてください
初めて自分で立ち上げたのは、家庭教師のビジネスです。口コミで生徒が増え忙しくなったので、2018年に研究職を辞めて、会社を立ち上げることにしました。
ラボアシスタント時代は9時から5時まで、週40時間働いていましたが、常々効率が悪いと感じていました。仕事がない日でも、一応オフィスにいなくてはいけませんし、チームで仕事をしていると、1人にたくさんの仕事が割り振られて、その人が終わるまで周りは何もできない、なんてこともありました。もっと自分に合った働き方があるのではないかと模索している中で、CICのベンチャーカフェで多くの起業家に出会い、起業家の自由な時間の使い方に魅力を感じました。CICに行ったのは本当に偶然で、家庭教師をしていた生徒の母親がCICにオフィスを構えていたため、そこで生徒に勉強を教えるようになったことがきっかけでした。ベンチャーカフェなどを通して起業家の方々と交流する中で、そのエネルギーに大きな影響を受けました。自分もその一員になりたいと思い、起業を決意しましたし、実は夫ともそこで出会いました。幸いなことにグリーンカードを持っているので、ビジネスを立ち上げる際のビザの心配はありませんでした。
会社を立ち上げたときは、子供向けの宿題のヘルプがメインでしたが、次第に大人からの依頼も増えていきました。特に駐在員や帯同している奥さま方から、英語を教えてほしいという依頼が多かったのです。そのうち企業からの案件も増えて、企業向けに日本とアメリカのビジネス文化の違いを教えるようになりました。一番忙しかったのは、コロナのあたりから始まった3年間。コロナの影響でビジネスがオンラインに移行し、より多くのクラスを教えるようになりました。そのころは60分のクラスを週に9個教えていましたね。外部のインストラクターを雇い、私は人事系の仕事に注力していました。
また、コロナ期間中に、趣味で発酵食品作りにハマりました。キムチや味噌、ヨーグルト、コンブチャ、ザワークラウトなど、様々な発酵食品を作りました。発酵食品を作るには湿度、発酵時間、空気量など、いろいろなことを考えなくてはならないので、大学で生物系の研究をしていた経験が役立ちましたね。
中でも特に納豆は、アメリカで新鮮なものが手に入りにくいので、自分で作っていました。納豆は、大豆を水に浸けてから圧力鍋で蒸し、納豆菌を振りかけて発酵させて作ります。納豆用の大豆はアメリカでも手に入りますし、実は日本で売られている納豆にも、アメリカ産の大豆が使われているんですよ。初めて自分で納豆を作ったのが、コロナ禍の2020年秋ごろ。最初は失敗もしましたが、徐々に改善していき、1年ほどかけて美味しい納豆が作れるうになりました。そしてこれを自分だけで食べるのはもったいないと感じ、ビジネスにすることを思い立ちました。日本人の友人に食べてもらい、アンケートを取ってさらに改善を繰り返し、2023年3月ごろ、本格的に納豆屋をやろうと決意しました。
(ファーマーズマーケットに出店した際の様子。右上の納豆人形はベトナムのアーティストに作ってもらった)
ビジネスを始める準備は、ロゴデザインから始めました。デザイナーに複数の候補を作ってもらい、ツイッターで投票を募りました。その後、Fiverrなどのサービスを利用し、ウェブサイトを立ち上げました。発酵食品を販売するためには、業務用キッチンを使わなければなりませんでしたが、シェアキッチンが利用できなかったので、潰れたレストランなどから格安で器具を譲ってもらい、自力でつぎはぎのキッチンを作りました。全体で約3万ドル(約400万円)ほどかかりましたが、新しいビジネスに投資すれば経費が使えるので税金の節約になりますし、大学やMBAに行くよりは安価で、実践的な学びが得られると考えました。
(お手製のキッチン。ここで納豆を作っている)
アメリカの工事は思うように進まなくて、準備が終わったのは11月頃でした。その間、2か月ほど日本に帰り、納豆工場を6軒訪問して、ノウハウを学びました。茨木はもちろん、大阪、京都、東京、韓国にもいきました。納豆屋さんを訪れるたびに芋づる式に次の訪問先が決まっていく感じでしたね。当時、発酵段階で豆が乾燥してしまうという問題にぶつかっていたのですが、日本の納豆屋さんを訪問して、プラスチックの膜(被膜)が重要であることを教わりました。良い被膜屋さんも紹介してもらい、納豆菌のブレンドのアドバイスも受けました。とても協力的で、いい人たちばかりでした。
こうして開いた納豆屋さんで、最初の1週間は約240個の納豆を販売しました。現在も変わらずオンライン販売で、個人宅への直接発送がメインです。
私は、一通り自分でその仕事をやってみないと、どんな人がその職に適しているのかがわからないと考えているので、今はまだ誰も雇わず自分で全部の仕事をやっている状態です。
常に試行錯誤の日々で、例えば納豆のパッケージングはお客様からのFBを受けて変更を加えました。アメリカの配送は時に乱暴で、以前のやり方だとお客様のもとに届くまでに中で納豆のパックが割れてしまうことがありました。そこで、ダンボールを強化し、Fragile(壊れやすい)ステッカーを使って注意喚起も行い、問題を解決しました。
家庭教師のビジネスと並行して納豆屋をやっている状態ですが、私は複数のことを並行して行う方が得意で、そうすることで全体がうまく回るタイプだと自認しています。それぞれの仕事には波があるので、忙しい時はその仕事に集中し、比較的余裕がある時はもう1つの仕事に注力することでバランスを取っています。
(実際に販売しているロゴパッケージ入り納豆 Boston Natto)
アメリカでの仕事において、特に気をつけていることはありますか?
アメリカ人と日本人で、マネジメントの仕方を変える必要があると感じています。端的に言うと、アメリカ人には個人の自由を尊重するマネジメントが必要で、日本人には明確な指示が求められる傾向にあると思います。
アメリカには、herding cats(猫の群れを束ねる)という言葉がありますが、アメリカ人のチームは、自由に動き回る猫をなんとなくまとめていくようなイメージです。私自身試行錯誤しながらやっていますが、アメリカ人の先生が一番やる気を出してくれると感じる瞬間は、同じミッションに向かって、みんなが突き進んでいる状態を作り、ゴールを明確にしたときです。何かをトップダウンで指導するとか、命令する形では動いてもらえません。アメリカ人は、未来を見ている人が多く、あまり背景や過去の事例について話さなかったり、準備をそれほどしなかったりします。とりあえずやりながら学ぶという人が多いと感じます。逆に日本人は、これから起きるかもしれない問題を回避するために念入りに準備をし、それがしっかりできてから動き始める感じです。なので、日本人の先生には最初のプロセスや仕事の説明を丁寧にして、いろいろ質問も答えて、それから始めてもらいますが、アメリカ人の先生には、まずやってもらって、途中で何かうまくいかないことがあったらその都度サポートをする、という形をとっています。
時間に対する考え方も結構違います。アメリカ人はプラスマイナス5分程度の遅れを気にしないことが多いです。そのため、日本人のお客さまも参加する大切なミーティング前には、30分の事前ミーティングを設けて、遅刻を防いでいます。メールの返信に関しても特殊で、なかなか返事が来ないので、返信が必要な場合は必ず締め切りを設定しています。
マインドでいうと、失敗を成功につなげる考え方や、失敗を恐れずにチャレンジする姿勢を大切にしています。
日本だったら失敗を恐れる人も多いと思いますが、失敗をするということは一つ選択肢が減って次のもっと良い選択肢に出会えるということなので、結果的にはいいことだと思います。また、他人に笑われるのが怖いという人も結構いると思うのですが、「その笑っている人たちって多分成功しない人たちだから、別にどう思われてもいいや」というマインドも持っていますね。私自身元々はネガティブなパーソナリティだったのですが、大学でエクスペリメンタルマインドセット(実験がうまくいかなかったとしてもわざわざ落ち込むのではなく、次何を変えたらうまくいくのかを突き詰めて考える姿勢)のトレーニングをされたことで、考えが変わっていったように思います。
(ファーマーズマーケットに出店した際のロウさんご夫妻。旦那様もお手伝いに駆けつける)
最後に、ボストンで働くことの魅力は何ですか?
ボストンは世界中から質の高い人材が集まる街だと思います。彼らのバックグラウンドが多様なことも魅力です。土地としても、車がなくても生活できるところ、コンパクトだけど狭すぎないところがすごく好きですね。あと冬が長いので、遊びに行かず仕事に集中できます。
如何だったでしょうか。本サイトでは、「私も一歩踏み出してみよう」と思える。挑戦者の行動を後押しする記事をご紹介しています。
次回の記事もお楽しみに!
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