「失敗なくして成功なし」と言われており、私たちBoston SEEDsのメディアでも、失敗の重要性について記事を公開しています。起業などに関するセミナーに行ったことがある方の多くは、「失敗は早いほうが良い」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。しかし、それは常に正しいのでしょうか?
そもそも、「失敗は早いほうが良い」といわれる理由は、多くの新しいアイデアは、最終的に成功するまでに市場の反応に基づいて修正される必要があり、市場に早い段階で投入することで、修正の必要性に早く気付けるからです。したがって、コンセプトの細部を練り上げることに膨大な時間とお金をかけず、できるだけ早く市場に投入すると、より早く、より低いコストで成功に到達できるはずだということです。
このように、「早く、安く失敗すること」は、適切な状況では価値のある考え方ですが、常に適切とは限りません。「早く、安く失敗すること」が最適である場合とそうでない場合の違いについて、中小企業向けコンサルティング会社Whitestone Partners の創設者ダグ・ホワイト氏とポリー・ホワイト氏の記事をご紹介します!
「早く、安く失敗すること」が適切な場合とは?
最適でない事例をご紹介する前に、「早く、安く失敗すること」が適切な例をご紹介します。その一つの例として、Digitas社の創業者であるマイケル・ブロナー氏が設立した、Upromise社という会社の事例があげられます。Upromise社は、消費者向けに商品を販売する企業(小売店、レストランなど)が、購入金額の数パーセントを顧客が大学教育の資金に充てられるように、口座に払い戻すことを前提としていました。
同社は、この仕組みのベースとなるプラットフォームを提供します。そして、顧客に払い戻しをするパートナー企業と契約し、パートナー企業から商品を購入する顧客を新規会員として獲得することで報酬を得ることができます。パートナー企業にとっては、売上の増加というメリットがあります。会員にとっては、タダでお金がもらえるということになります。このコンセプトは、一見もっともらしく見えるのですが、全く実績のないものでした。
同社の設立当初、最も重要だったのは、このコンセプトがうまく機能し、会社が利益を上げられることを実証することでした。そのために多くのアイデアが試され、うまくいったものは展開され、うまくいかなかったものは閉鎖されました。失敗も多くありましたが、ビジネスがうまくいき、利益を上げられることを示すのに成功しました。
早く、安く失敗したことで同社はイグジットに成功し、初期の投資家はかなりの利益を得ることができました。
実績のあるコンセプトをもとに事業を立ち上げるとき
上記のUpromise社の事例では、「早く、安く失敗すること」により成功しましたが、全ての場合に当てはまるわけではありません。
新しいコンセプトやアイデアを立ち上げる場合、できるだけ早く市場に投入し、早く安く失敗し、試行錯誤して学習することは、非常に理にかなっています。しかし、他の人が何度も成功させているような、実績のあるビジネスを立ち上げる場合には、この方法はあまり向いていません。先人の生み出した技術がある場合なら、その技術の再発明に取り組むのではなく、先人の経験から学ぶことが重要です。例えば、あなたがマクドナルドのフランチャイズを立ち上げるとします。この場合、あなたは、どのようにすればフランチャイズで成功できるのかを1から考える必要はなく、過去の事例から学ぶことができます。試行錯誤するよりも、ずっと早く成功にたどり着けるはずです。
ビジネスがブランドを構築しているとき
たとえ新しいコンセプトやアイデアを始めたとしても、ある程度の成功を収めたら、「早く、安く失敗する」というアプローチは捨てる必要があります。事業を始めたばかりの頃は、バランスシート上の資本もなければ、市場におけるブランド力もありません。この時点では、挑戦して失敗することにほとんどコストはかかりません。文字通り、失うものは何もありません。しかし、ひとたび成功を収めれば、そうはいかなくなり、失うものがあります。
一度成功した製品やサービスを発売した企業が、新たな製品やサービスを導入する際には、失敗によってせっかく作り上げたブランドが損なわれないように注意する必要があります。このとき、失敗すれば、それまでに創り上げた価値を破壊することになりかねません。例えば、ある服飾デザイナーが、これまで成功した商品をいくつか発表してきたとします。新しい製品が大きな失敗を犯すと、顧客のブランドに対する見方が悪くなる可能性があります。
失敗を恐れず、失敗から学び、次に進むことは、失うものが何もないときには、とても良いことです。しかし、バランスシート上の資本と市場におけるブランド・エクイティが確立された後は、より慎重な対応が求められます。この時点では、新しい製品に失敗すると、ブランド・エクイティが失われ、バランスシート上の価値も失われる可能性があります。
ビジネスが成長し、インフラと安定性が必要になってきたとき
また、ビジネスの複雑性が増すにつれ、戦術も変えていかなければなりません。当初、Upromise社という会社は、新しいアイデアをオペレーションが追いつかないほどのスピードで導入していました。コンセプトが確立される頃には、バックオフィスはまるでガムテープと針金で支えられているような状態になっていました。
例えば、Upromise社という会社のウェブサイトで重要な情報のひとつが、ある製品の払い戻し額でありました。実際、この情報は、一つの製品について、ウェブサイト上の十数カ所に掲載されていることがあります。
こうした重要な情報について、どれか1つのデータをマスターとし、マスターの情報を変更すれば他のデータも自動的に変わるという方法をとることは、完全に理に適っているはずでした。しかし、残念ながら、ウェブサイトはこのように構築されていなかったのです。新製品やコンセプトをできるだけ早く立ち上げることを優先し、各データはそれぞれ独立していたため、個別に変更する必要がありました。不幸なことに、こうした重要なデータがウェブサイトのどこに存在するのかの指標すらなかったため、これらのデータを変更するには、そのデータが存在するすべての場所を検索する必要があったのです。当然ながら、エラーも少なくありませんでした。
Upromise社のコンセプトが実証されると、経営陣はようやく新しいアイデアの実装を中断し、インフラを修正する必要があることに気づきました。その結果、少し時間はかかりましたが、安定した運用ができるようになりました。Upromise社が、そのコンセプトをできるだけ早く証明したのは、確かに正しい選択でした。しかし、ある時点で規律やインフラを導入する必要があったのです。
安いからと言って、失敗し放題というわけではない
「早く、安く失敗する」ことが適切である場合が多い、新しいコンセプトの初期段階であっても、企業は安いからという理由で失敗することを望んでいません。少なくとも、市場に出そうとしているものが、成功する見込みのあるアイデアであることを確認する必要があるのです。発売したものがあまりにも安っぽく、箱から出したとたんに壊れてしまうようでは、コンセプトの実現可能性について多くを学ぶことはできないでしょう。
適切な時期に、適切な方法で使用すれば、早く、安く失敗することは強力なツールとなります。しかし、その使い方を誤ったり、極端になったりすると、このコンセプトは大きな価値の破壊を招きます。適切に使用すれば強力な力となり、不適切に使用すれば大きな害をもたらす可能性があるため、その取扱いには注意が必要です。
今回は、多くの起業家が勧める、「成功のためには、早く、安く失敗することが大切である」という教えが適切でない事例についてご紹介しました。如何だったでしょうか?本サイトではボストンで話題のニュースや挑戦を後押しする記事をご紹介しています。ご質問やご意見あれば、是非お問い合わせフォームをご活用ください!!記事が良かったらシェアをお願いします!
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