「気候変動問題」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?グリーンハウスガス?異常気象?世界のトップ研究機関が議論している“気候変動の今”をボストンのトップスクール在籍の皆さんに語って頂きました。
第一回は「MITエネルギー会議2022」のコンテンツディレクターを務めた伊藤さん、ハーバード大学ウェザーヘッド国際問題研究所・客員研究員の光岡さんによる寄稿です!
>>「第一回 ボストンに学ぶSDGsの今!(1/2)」はこちら
つづいて、ハーバード大学のウェザーヘッド国際問題研究所の客員研究員として、サステナブルな脱炭素社会構築の研究に取り組んでいる筆者が、ハーバードで従事している2つのプロジェクトを紹介させていただきます。
気候変動リビング・ラボ(Climate Change Living Lab)
ハーバード大学には、サステナブルな社会の実現に向けたアイデアとソリューションを創出することを目的に、2016年に創設された「気候変動リビング・ラボ(Climate Change Living Lab)」という研究プラットフォームがあります。同ラボは「私たちのキャンパスはソリューションの一部である」をコンセプトに、ハーバード大学のキャンパスと周辺のコミュニティーを実験場として、気候変動対策につながるアイデア創出および新たなソリューションの開発を進めています。ここで生み出したソリューションは、大学のカーボンニュートラルの達成をはじめ、地域、都市、および世界各国に展開し、気候変動対策に貢献していくことを目的としています。
Climate Change Living Labのイニシアティブとして、大学は、研究オフィスの提供、約1億円のプロジェクト支援金および学生助成金などを提供しています。プロジェクトメンバーは、ハーバードおよびMITの修士、博士から選抜された専門性を持つ30名の学生と教職員、および全米の地球温暖化・気候変動対策の専門家です。専門家チームは、TH Chan公衆衛生大学院、ジョンA.ポールソン工学応用科学大学院、ハーバードビジネススクール、ハーバードケネディスクールなど、ハーバードの各学校を代表する教授、およびMicrosoftなど先進的に気候変動対策に取り組んでいる企業の方々です。筆者は2021年度の専門家チームの一人に選抜され、プロジェクトに従事しています。
2021年度の気候変動リビング・ラボのテーマは、「企業や自治体がカーボンニュートラルを実現するための支援ツールを評価、分析、開発する」ことです。そのテーマに基づき、現在、次の4つのプロジェクトを進めています。
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筆者は、すべてのプロジェクトに関わりながら、主に、オクラホマ州の先住民族の農業支援マイクログリッド事業を担当しています。プロジェクトの目的は、農業を軸に生活している先住民族の地域コミュニティーが、環境負荷を軽減しながら、食料主権を向上させるコベネフィットの実現に向けた事業計画の提案、およびマイクログリッドを活用した温室効果ガス(GHG)排出量の削減ツールを開発することです。プロジェクトの概要は次の通りです。
1. リソース評価:当該エリアにおける適地調査、ソーラーシェアリングシステムの容量、建物、インフラの利用可能性などの評価 2 .電力利用の属性調査:地域ユーザーの需要、所在地、電力コストと電力源など、現地の電力利用に関する調査 3.マイクログリッドの設計:既存電力網との接続、規制、電気自動車の活用、放牧などの農業活動に適した設計 4.マイクログリッドやソーラーシェアリングシステムの所有権、発電量、関連する再エネクレジット、初期資本コスト、運用コスト、資金調達メカニズムに関する提言 5.コベネフィットの提言:食料主権の推進など、国家が重視しているコベネフィットの整理、およびコベネフィットを測定する基準および実現能力の分析とツールの開発 6. 資金源や関連リソースを含む、農業支援マイクログリッド事業の拡大戦略に向けた提言 7.電力会社のインセンティブ、税制控除、助成金など、再エネやオフセット市場の現在の経済性や規制制度の分析 |
現在、週3回の定例ミーティング、学生、教授、他の専門家とのディスカッション、現地調査・インタビューを通じて、事業計画の策定、ツールの開発に取り組んでいます。
2022年4月20日に実施した中間報告会には、ボストン市をはじめとした自治体や企業のサステナビリティ・気候変動対策の責任者、および全米の専門家25人がハイブリッドで集まり、ディスカッション、フィードバックを行いました。
引き続き、ソリューションの開発に取り組み、本プロジェクトが終了した後は、Clime Change Living Labの目的の通り、ハーバードで開発したソリューションを更に改良し、日本の学校・企業、地域へ適用していき、サステナブルな脱炭素社会構築への加速に向けて、微力ながら貢献していきたいと考えています。
ぜひ日本の学校のキャンパスや地域で、Climate Change Living Labに取り組んでみたいBoston SEEDsの読者の方や関係者の方がいらっしゃいましたら、ご協力できると思いますので、筆者までご連絡いただければ幸いです。
(写真)世界で最も持続可能な建物として、LEEDプラチナおよびLiving Building Challengeの認証を受け、2021年秋にオープンしたハーバード大学の科学技術ラボおよび研究室
(写真)2022年4月20日に開催したオクラホマ州農業支援マイクログリッドプロジェクトの中間報告会。
持続可能な街づくり・SDGs#11
ハーバード大学には、ビジネススクール、ロースクール、ケネディスクール、メディカルスクールなど複数の大学院があり、そのうちの一つが1874年に創設されたデザイン大学院(The Harvard Graduate School of Design(GSD))です。
GSDは、世界で最も歴史のあるランドスケープ・アーキテクチャ・プログラム(1893年設立)や、北米で最も古い都市計画プログラム(1900年設立)を有しており、建築分野における環境デザイン学を主とし、建築、ランドスケープ学、都市計画、都市デザインなどの課程があります。
2021年のBest Architecture Masters Ranking(世界建築大学院ランキング)において1位にランクされています。またGSDには、広島平和記念公園を設計された建築家の丹下健三先生が寄贈された図面が保管されており、アーカイブとして公開されています。
今回の記事では、現在、筆者がGSDの博士課程のメンバーおよび専門家と共同で取り組んでいるプロジェクト「国連ハビタット・持続可能な街づくりSDGs#11」を紹介をさせていただきます。
このプロジェクトの目的は、2022年の夏に、国連ハビタットと都市経済フォーラムが共同で開催するイベント「持続可能な都市開発のバーチャル・パビリオン」にて、ハーバード大学として「持続可能な都市開発のあるべき姿」を学術的な立場から提案し、世界に発表することです。
プロジェクトは、2021年9月に、建築・デザイン・都市開発に関する経験・キャリアを有するハーバードの修士、博士、および専門家の25人でスタートしました。
前半の2カ月間は、持続可能性・SDGs#11に関する基礎知識の習得、ブレインストーミング、アイデアの整理を行いました。基礎知識習得のため、①過去30年間の持続可能な都市開発の歴史と理論、および他の環境分野や国際開発との関係、②SDGs#11の歴史的・理論的背景に関する文献を軸にディスカッションを重ねました。
後半は、各メンバーの専門性や関心をふまえたチームを編成し、2022年夏の「持続可能な都市開発バーチャル・パビリオン」の提案にむけた選考会となるチーム・コンペティションを開催しました。
幸いにも、コンペで最優秀賞をいただき、本番のパビリオン提案のたたき台となった筆者チームの提案を簡単にご紹介します。
私たちのチームでは「Empowerment(エンパワーメント)」をコンセプトに、世界各国の都市のうち、市民および地方自治体が主体となり街づくりに取り組んでいる事例を収集し、その都市計画とガバナンス・データ等を分析し、都市開発におけるプロトタイプ・デザインを作成しました。
次に、世界の都市を連携させるためのプラットフォームを構築しました。このプラットフォーム上で、世界各国の都市、自治体、市民をつなぎ合わせ、持続可能な都市開発における課題、成功・失敗事例、イノベーション、実現プロセスなどの共有、およびディスカッションの場を提供していく仕組みです。
(図)筆者のチームでデザインした北九州市の都市開発のプロトタイプ。北九州市は、OECDより「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」に選定されている。
(写真)筆者のチームで構築した世界の都市、自治体、市民をつなげるプラットフォーム。
2022年より、プロジェクトは、GSDの博士と筆者の所属する専門家のチーム6名で引き継ぎ、4月21日にカナダのトロントで開催されたグランドオープニングイベントにて、中間報告を行いました。
これから夏までの数カ月かけて、プラットフォームの改良を進めています。この取り組みが、今、世界で起こっている紛争の解決、公平性の改善等、世界が持続可能に前進していくためのコンセンサスの構築につながっていく事を目指し、チームの仲間とプロジェクトに取り組んでいます。
世界は、今後40年間、毎月ニューヨーク市を1つ、つくり続けるペースで都市が増えており、2050年には、都市部人口が68%に到達すると予測されています。2050年のネット・ゼロの実現に向けても、持続可能な都市開発は最重要課題の一つです。今後、街づくりの分野においても、ハーバード大学と日本の大学・企業の連携強化を進めていくことを視野に入れながら、引き続き活動して参りたいと思います。
ぜひ本プロジェクトや持続可能な都市開発、ハーバードGSDとの共同事業等にご関心のあるBoston SEEDsの読者の方や関係者の方がいらっしゃいましたら、筆者までご連絡いただければ幸いです。
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光岡伸洋//ハーバード大学ウェザーヘッド国際研究所・客員研究員。サステナブルな脱炭素社会構築の専門家として、分散型エネルギーを活用した持続可能な街づくりの研究、および農業支援マイクログリッド、持続可能な都市開発プロジェクトに従事。NTT出身。元外交官。外交官時代は、中国・雲南省の農村の貧困脱却を目的としたオーガニック珈琲事業の立ち上げ、COVID19で封鎖された武漢市における法人救出オペレーション等に従事。現在は、アルゴア元米国副大統領認定の気候変動対策リーダーとして、学校や企業向けに気候変動・SDGsをテーマとした探求ワークショップや講演活動も行っている。(ご連絡はこちらにメッセージをお願いします)Facebook:https://www.facebook.com/mitsuoka.nobuhiro/