自分の感情やパーソナリティにシンクロするもの。会計事務所を辞めてアメリカで起業した女性がこだわったポイント。アメリカで戦う挑戦者 Vol.8

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池村渚と言います。アメリカのカリフォルニアで生まれて、小学校までアメリカで過ごしました。その後日本に行き、中学、高校、大学を日本で経験しました。スポーツが好きで、中高ではバレーボールをやりました。大学では陸上競技をやりました。またスポーツ関係の学部を卒業しました。日本で就職もしましたが古風な会社に就職したこともあり肌に合わず、退職してカリフォルニアに再チャレンジしようと決めました。そこで英語を勉強し直しビジネスを学びたいと思って、それなら会計がいいのではないかと考えて簿記を勉強しました。そしてCPAを取得して、会計事務所で働くことになりました。 就職活動をして、今度はシカゴの会計事務所で働くことになりました。4年ほど働いていたところ、コロナパンデミックが発生。そしてコロナ禍と同じくらいのタイミングでBLM活動が盛んになりました。治安は悪化して、18時以降は家から出ないようにという警告も出るほど、街中でのデモが激しく行われていました。そして会社のレイオフも盛んになってきました。直属の上司が辞めることになり、状況が分からないまま自分のところにどんどんと仕事が降りかかってくる状態になりました。仕事でも生活でも安全な場所がなくなっていく印象で、このままじゃダメだなと思うようになったのです。実は会計事務所で働き始めて1年ほどたった時点で会計の仕事は自分に合わないとは思っていました。さらに特にシカゴにいる理由もありませんでした。たまたま就職した会計事務所がシカゴにあっただけです。そこから、自分には本当に何が合っているのかを考えはじめました。それが現在のお弁当屋さん(Nagomi Bento)をやることにつながります。

 

会計の仕事からどのようにお弁当屋さんを始めることになったのですか?

コロナとBLMが湧き起こる中で会計事務所の最後の一年を過ごしたわけですが、自分に何が合っているのかを考えていった時に、まず私はずっとスポーツをやってきたので健康な体があるし、体力があることだと考えました。これは自分の優れた点だと思いました。そして会計事務所の経験を踏まえて、自分のパーソナリティとしては、パソコンの前にいるよりも人と会う方が合っていると考えました。そしてスポーツをやってきた関係で食べ物が好きで自分でこれまでお弁当を作っていました。特に大学ではよく自分でお弁当をつくっていましたし、栄養管理も勉強してきました。これらを掛け合わせてお弁当屋さんをやろうと決めたのです。自分のキャラクターも活かせると思いましたし、自分の作ったお弁当で周りも喜んでくれると考えました。

私がなぜお弁当が素敵だと思うかというと、お母さんがお子さんにつくったり、夫婦でつくったりして、ただの食べ物、ただのランチボックスじゃないという点です。食べ物に気持ちが乗っている。どこかやさしい気持ちになれるもの。お弁当は一番良いタイミングで食べるものではありません。しかし冷めているのに温もりを感じるものです。そういう点が自分のキャラクターに合っていると思ったのです。自分のパーソナリティに照らし合わせた時に、同じ食べ物を作るにしてもカフェやレストランではなくて、お弁当だと思いました。お弁当の持つ温もり、やさしさはカルチャーを超えても伝えていけるものだと考えましたが、お弁当がユニークだから、売れるからというのではなく、自分にシンクロしているアイテムだと考えたのです。会計で使っていたロジックではなく、自分の感情やパーソナリティという側面から、お弁当がぴったりだと考えたのです。

お弁当屋さんをどこで開くかということについては特に意識していなかったのですが、シカゴにいる理由は特になかったですし、たまたまご縁があってボストンに引っ越してお弁当屋さんをやろうと思いました。今から考えると、ボストンはサイズ感がちょうど良い場所です。まず公共交通機関が発達しています。たとえばロサンゼルスでは、なんでも車で買いに行かないといけません。それはやはり一手間です。しかしボストンはバスも電車も張り巡らされています。ここに住んでいる人は、電車に乗ってちょっと足を伸ばすという感覚で移動ができます。またそれでいて、小さく閉じた都市ではなく、都市としてのユニークな点も兼ね備えています。例えば新しいカルチャーを受け入れる風土があります。日本食もメジャーです。とはいいつつ、ニューヨークやシカゴよりも都市として大きいわけではないので飲食関係の競合が少ないなど。こうした点を踏まえると、ボストンでスタートしたことは良かったと思います。

自分の感情やパーソナリティにシンクロするもの。会計事務所を辞めてアメリカで起業した女性がこだわったポイント。アメリカで戦う挑戦者 Vol.8

 

会計の仕事を続けながらお弁当屋さんを始めることは考えなかったのですか?

躊躇はしました。しかし会計事務所に働きながら並行して進めることは難しかったです。忙しくて、パラレルに仕事ができる状況ではありませんでした。そして自分にあっていない会計事務所に残る方が危機感が強かったのです。ここにいてはいけない、会計事務所に居続ける方がこわかったのです。自分がダメになっていってしまう感じがしていました。

学生時代ずっとスポーツをがんばってきたのに、卒業して就職した瞬間、自分から何もなくなってしまった感じがしました。スポーツをやっていた時は自分は輝けていたのに、突然社会の一員になり、ずっと空っぽな感じがしていました。会計をやってみたものの、何かが合わない。会計事務所にいる自分は輝いていないと思いました。とりあえず働かなきゃいけないから働くというのはあるとは思いますが、ずっと心地よくなくて、このまま老いていきたくないと思ったのです。自分にあったことをやって充実した人生を送ろうと思いました。

一方で、もう私はレジュメを更新しないとも決めていました。つまり就職活動はしないということです。会計事務所にいた時、自分がアリみたいだと思っていました。エクセルシートと睨めっこして、上司に持って行ったら、「ここを変えて」「あそこを変えて」と言われ、その通りに修正をする。これは私でなくてもいいし、自分の特徴を何も活かせていないと感じていました。誰かのどこかの会社を探す選択肢もありましたが、自分でやった方が早いと思いました。だからこそ自分の輝ける場所は自分で作ろうと思ったのです。

そこからもっと自分中心に、何が得意なのだろう、何が好きなんだろうと考えるようになったのです。シカゴで働いている時にたまたま知り合った方で、シカゴでMBAに通った後におにぎり屋さんをはじめた日本人の方がいました。彼を見て、「はじめることができるんだな」と思ったのです。そして、どうやって始めたのか、ライセンスのことやシェアキッチンのこと、まず何をすれば良いかを教えていただきました。

お弁当屋さんをやってみて、最悪失敗したら戻ればよい。中途半端に両方をやって両方とも失敗するよりも、どちらかに振り切ってやった方が自分らしいと考え、退職してお弁当屋さんを始めました。アメリカで始めたのも良かったのかもしれません。ここでは出る杭が打たれるというのはありません。そんなの無理だよと言ってくる人はほとんどいませんでした。逆にやってみればと言ってくれる人の方が多かったのです。またアメリカは新しいものを支援してくれる環境でもあります。あとでお話ししますが、実際に私は市に支援をしてもらっています。ただ、アメリカは日本に比べてお金がすごくかかりはします。

 

スタートは順調にいったのでしょうか?

お弁当屋さんに本格的に取り組んだのが2022年6月です。販売する商品は自分の家のキッチンで調理してはいけません。特定のシンクがないといけなかったり、何度以上の食洗機で食器を洗浄しないといけなかったりするので、そうした業務用のキッチンのことを調べていたら、そもそも業務用キッチンを借りるためには飲食関連のライセンスが必要なことが分かり、まず2つ取得することにしました。ライセンスは比較的スムーズに取得できました。改めて業務用キッチンを探したのですが、どこのキッチンも使用料が高かったので、少し距離はありますが、シェアキッチンを借りることにしました。しかし初めてそのキッチンに行った時は大変でした。そもそも火の付け方やオーブンの付け方など、業務キッチンの使い方が分からなかったのです。その場にいる色々な人に聞きながら教えてもらい、ようやくキッチンに慣れてきたところで、ファーマーズマーケットに出店してみようと決めて、そこからスタートしました。

お弁当のメニューは、まずは唐揚げとシャケを入れようと思いました。この2つはお弁当界のベーシックだと思ったからです。チキン、フィッシュときたので、次にビーフとベジタリアン向けがあると良いのではと考えました。ビーフはJapanese BBQとしてボストンでも人気ですし、焼くだけなので比較的効率よくできそうだと思い、焼肉弁当を追加。そしてベジタリアン向けとしては、最初は豆腐を考えましたが、豆腐は腐りやすいので、ナスに目をつけて、ナスをステーキ風味で仕上げるお弁当を揃えることにしました。

最初は特に何個売ろうとは考えずに、20個を作ってファーマーズマーケットに行き販売。割とすぐに売り切れたので、どんどんと数を増やしていきました。というのも、ファーマーズマーケットは売れても売れなくても、売り切れても、決まった時間その場にいないといけません。例えば9:30〜13:30の4時間だったり、長いケースだと6、7時間いないといけません。そのため50個ほど用意して持って行くようになりました。

ファーマーズマーケットでの販売に慣れてきた頃、シェアキッチンに来ていた他の同業者からポップアップストアの話を聞きました。ボストンのケンブリッジという場所にあるブリュワリーで、夜になるとフードのポップアップストアを展開しているようで、月に2、3回出店をさせてくれるようでした。ファーマーズマーケット向けのお弁当は業務用の大きいシェアキッチンで作って、そこから運んで販売していたのですが、こちらのポップアップストアではキッチンが併設されていることもあり、そのキッチンで作って販売するので、遠いシェアキッチンで調理して運搬する必要がありません。とはいえ、調理の進め方は変わってしまうので、少し怖かったのですが、成長の機会になると考えて、こちらからEメールを送ったところ、快く受け入れてもらうことができました。

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ボストンの人々にとってお弁当はどのように受け止められていますか?

ここでは、お弁当はまだまだ知られていない存在だと思います。販売していても、お弁当って何?というところからスタートします。「ごはん、メイン、そして野菜も入っていて、ボール1個で完結するものだ」という基本的な説明をしています。いまだにシャケは焼いてあるのか?刺身なのか?といった質問もされます。お客さんを教育するのも仕事の一環だと思っています。

そうした甲斐もあって、常連さんが増えてくれています。30代〜60歳くらいの年齢層上めの方が多く来てくださっている印象です。男女は半々くらいです。単純においしいと言ってくれるのはもちろんですが、お昼からお魚を食べることがこちらではなかなかできないので、シャケ弁が好評です。先ほどお弁当は気持ちが乗っているものだと言いましたが、お客さんがお腹の空いている時にお弁当を開けて、WOWと思って欲しいので、色とりどりの素材を入れたり、ニンジンを花形にくりぬいて入れたりしています。女性の方はかわいいと言ってくれます。栄養バランスが良くて、かわいくて、ユニークで色とりどりで綺麗という点を好んでくださっています。

夜を含めれば唐揚げが一番売れています。こちらのフライドチキンとは違ってジューシーだと言ってくださいます。こちらだと衣に味がついているのですが、日本の唐揚げは衣は薄くて鶏肉がジューシー。この違いに驚いてくれて美味しいと言ってくださっています。

自分の感情やパーソナリティにシンクロするもの。会計事務所を辞めてアメリカで起業した女性がこだわったポイント。アメリカで戦う挑戦者 Vol.8

 

最後に、今後の展開を教えてください

ボストンでお弁当屋さんを始めて、まずファーマーズマーケットから、そしてポップアップをやり、今は店舗での販売をしています。ボストンのサマービル市が運営している活動なのですが、海外から来ているユニークな飲食系スタートアップを市が支援をしていて、8週間のワークショップを終えたスタートアップの中から選ばれた企業が、市が運営するマーケットで、週に3回、1年間店舗を借りて販売をすることができます。ありがたいことにその一社に選ばれて、現在はその店舗で販売をしています。キッチンが併設されている場所なので、まず遠いキッチンで作って運搬しなくてよいので、その分楽になりました。全てこの場所で完結するというのは、忘れ物の心配などもしなくて済むので、やはり良いです。ただし、こちらでは販売量も増え、準備の量もそれにつれて増えるし、キッチンにいる時間も長くなるため、仕事へのコミットメントが強くなっています。

この先はお店を探して、現在の形のように店舗を持ちたいと思っています。理想としては朝から昼過ぎまで営業をする、お昼専門のお弁当屋さんをして、夜は家に帰って自分の時間を過ごしたいと思っています。会計事務所にいた時は、自分の時間が本当にありませんでした。朝早くから夜遅くまで働いて、休みなく働いていました。ちなみに日本で働いていた時よりも、アメリカの会計事務所の方が働いている時間が長かったです。一方でアメリカの事務所の方がフェアだったと思います。たまたまその会社がそうだったのかもしれないですが、変なトラディションはありませんでした。例えば女性だから働きにくいなど、女性だからという差を感じたことはありませんでした。上司より先に帰ってはいけないなどはありませんでしたし、自分の声も会社は聞いてくれたと思います。そうした経験も踏まえて、自分にも、一緒に働く人たちにも、ライフワークバランスを含めた良い環境を提供したいと思っています。朝から晩までお弁当を販売するよりも、短い時間でちゃんと販売して、それでも事業を運営していける体制にできればと考えています。お客様だけでなく一緒に働いて下さる方々のも心が和む場所になるようにできたらと考えています。

 

 

如何だったでしょうか。本サイトでは、「私も一歩踏み出してみよう」と思える。挑戦者の行動を後押しする記事をご紹介しています。

次回の記事もお楽しみに!

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  • Boston SEEDs運営

    Boston SEEDs は B-SEEDs LLC (Delaware, US) 運営のオンラインメディアです。”Entrepreneurship Mindset”のカルチャーを世の中に更に浸透させるべく主にボストン在住の現役の MBA 生がボランティアで活動運営しています。 Note

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