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皆さんは、「社会貢献」という言葉を聞いて、何を思い浮かべますか?ボランティア活動でしょうか?社会貢献活動のひとつの形として、NPO(特定非営利活動法人)があります。日本では、ボランティア活動などの社会貢献活動をより一層推進することを目的に、1998年に「NPO法」が制定されました。以来、日本におけるNPOの数は着実に増え続け、2022年末には約5万のNPO団体が登録されています。
では、NPOを運営する人たちはどのような人たちなのでしょうか。一般の人たちとは違う、特別な存在なのでしょうか。
今回は、母であり、大学教員であり、アメリカ・マサチューセッツ州を拠点にグアテマラの先住民族コミュニティを支援するNPO“Sowing Opportunities”代表である、ファーン・レメディ=ブラウンさんに、貴重なお話を伺うことができました。
アメリカにおけるNPO活動の現状や、ファーンさんがNPO活動を始めたきっかけ、今後のビジョンなどをお伺いしたいと思います。
ファーン・レメディ=ブラウン氏
アメリカ・マサチューセッツ州を拠点とするNPO団体“Sowing Opportunities”のファウンダー。教育学修士号(第二言語としての英語)、MBA(グローバル&ヘルスケアマネジメント)取得後、ボストン大学をはじめとした教育機関で講師を担当。多文化・多言語の人々のニーズを理解し、成功するプログラムを設計することを専門としており、世界の医療不公平をなくすことに注力したプロジェクトを進めている。ボストン小児病院やハーバード大学公衆衛生学部での勤務経験があるほか、フリーランスのジャーナリストとして、社会正義に関するグローバルな問題について執筆。出版物についてはこちらを参照。
”未来は自分たちのもの”
NPOの活動についてお聞かせください。
私は、「グアテマラの農村で自立と教育、健康を育む」というミッションのもと、グアテマラ先住民に以下のソリューションを提供することを目的としたNPO“Sowing Opportunities”を運営しています。
- 温室栽培による農業栽培システムとその維持管理方法の教育
- 農産物の販売を通じた経済発展と持続的成長のための知識提供
- 水の供給とろ過システムの設置
(村に住み込みの農業専門家との対話, 2022.3-5)
私たちは、栄養を提供する温室農業システムを構築し、このプログラムに参加した家族がその農産物を地元のマーケットで販売できるようにすることを主眼に置いてきました。
2015年にコンセプトの策定を始め、2018年にNPO法人として登録しました。この時までに、現地視察を行い、クラウドファンディングで資金を調達し、現地のパートナーを集めました。
アメリカでは、NPOとして登録するためには、501(c)(3)という法律を遵守し、一定期間活動した後にNPOとして登録することが義務づけられています。これは、アメリカでは非営利団体への寄付は税金の控除対象となるためです。このため、連邦政府は申請書の審査に一定の期間を必要とします。一般的な期間としては、NPO法人の登録申請には数週間から数ヶ月、税金の免除申請には数ヶ月から1年程度かかると言われています。(参考: How to Start a Nonprofit in 12 Steps)
もうひとつ、活動を始めるのが遅れた理由は、まず私がMBAプログラムを修了する必要があったことです。フルタイムで働きながらMBAに通い、2人の子どもを育てるのは簡単なことではありませんでした。
MBAプログラムに入学する前、私は地元の病院に勤めていました。そのとき、さらに専門性を高める必要があると考え、MBAに入学しました。
私の指針のひとつであり、アメリカ文化の一部でもあるのが、「We can do anything.(私たちは未来を変えることができる)」です。私は、この考えのもと、行動しています。
”アメリカのNPOの現状は?”
もともとNPOの活動に精通されていたのでしょうか?
私自身、活動を続ける中で、さらに知識を蓄積してきました。
世界には約1,000万(2021年)のNPO・NGO団体が登録されており、そのうち20%の180万がアメリカに拠点を置いています。
(cf. FOUNDATION GROUP)
NPOが提供するサービスのひとつに、行政がサービスを提供しない分野でのサービスがあります。例えば、先住民の生活支援です。また、行政が支援をしているが十分でないケースもあり、アメリカの公共ラジオであるナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)が挙げられます。
また、NPOが獲得している資金の内訳を見ると、過半数(全体の52%)は地域社会に対する活動のための資金であるのに対し、国際的な支援を行うための資金は全体の10%と低く、私たちのように国境を越えて活動するNPOが資金を調達するには通常以上に努力が必要です。
(cf. URBAN INSTITUTE)
一般的にNPOと聞いて思い浮かべるのは、チャリティーなどの募金活動でしょう。
しかし、NPOの活動を大きく分けると、次のような活動になります。
– チャリティーのための資金集め
– 地域社会と人をつなぐ活動
– 研究活動
– 寄付者への啓蒙活動
– 社会のニーズを把握
– 認知度の向上
(cf. G2)
活動資金は、イベントの開催や寄付金集め、寄付や制作したものを販売する収益によって集められます。
アメリカはチャリティーに熱心な国だということをご存知でしょうか?
もともと宗教的なバックグラウンドから、人を支援するという行為がアメリカの文化として根付いていることに加え、寄付をすると税金の控除(タックス・ブレイク)を受けられることも理由の一つです。
特に、感謝祭の翌週の火曜日(11月末、「ギビング・チューズデー」と呼ばれる日)と元旦前は、1年の中で最も寄付が盛んに行われる時期です。これは、ギビング・チューズデーには、「ペイイング・イット・フォワード」(自分が持っているものに感謝して人に贈るという意味)で周りの人に感謝したいという人が多く、元旦前には、年間予定納税(慈善寄付をすることで納税額が減る)のため減税を利用したいという人が多いからです。
”私を動かしてくれた娘の存在”
グアテマラを支援するNPOを立ち上げたきっかけは何でしょうか?
実は、活動当初はNPOを立ち上げるつもりはなかったんです。
私にはグアテマラから養子に来た娘がいるのですが、2011年に娘が6歳になったとき、「実のお母さんに会いたい」と言ったんです。私はその言葉に傷つくことはありませんでした。なぜなら、私も実父の家族に会ったことがなく、彼女の気持ちに共感できたからです。
しかし、先にも述べたように、私はすぐに行動することができませんでした。
それから4年後の2015年1月、グアテマラ出身の友人の協力を得て、私は娘の産みの親を探すことができました。
その友人が娘の実母について知ったことを話してくれたとき、私たちは村全体が貧しく、助けを必要としていることを認識しました。
2015年、私たち家族はグアテマラを訪問し、村から遠く離れた観光エリアで娘の実母に会い、2018年に彼女たちの村に足を運び、住人に会うことができました。この出会いはとても感動的で、特に娘の実姉の手を握りながら村の中を歩きました。 2017年12月に私たちのチームが市長と会談した後、市政府が設置した水タンク、配管、蛇口を目撃しました。
彼らが置かれている厳しい状況を知ったとき、このままでは命が危ないと感じ、この状況を解決することが自分の使命だと思いました。
2015年から、このグアテマラのコミュニティが自立して生活できるよう支援しようとしていましたが、当初は娘の実母と2人の子どもの生活環境を改善することが目標でした。 しかし、村の状況を直接目の当たりにしたことで、より鮮明に、より身近に感じることができ、その瞬間、私の情熱と決意は固まったのです。
(グアテマラ北東部の先住民族の村チャイミャックの温室の前で, 2022.5)
”できること、目の前にあることから進める”
プロジェクトを支援すると決めた後、最初にとった行動は何ですか?
まず行ったのはクラウドファンディング(GoFundMeやKickstarter)です。これらの手段により、2015年と2016年に草の根の寄付で4万米ドルを調達することができました。しかし、それだけでは自分たちのコミュニティを支えるには不十分で、本格的な支援を続けていくためには、NPO法人などの組織を設立し、より継続的に資金を獲得していく必要があると考えるようになりました。
(実際のクラウドファンディングのページ)
しかし、当時は有力な出資者や支援者がいませんでした。そこで、友人や知人に一人ずつ電話をかけ、その連絡先からメーリングリストを作成し、定期的に活動状況をお知らせすることにしました。
このとき作成したメーリングリストは、わずか75名ほどでしたが、私たちにとっては大きな一歩となりました。
当初は、タバスコやチョコレートなど、さまざまな農産物の企画を検討しました。
また、村の家族のニーズを把握することも心がけ、特に、どのような作物を作りたいのか、ヒアリングを行ったんです。このインタビューでは、お互いの意見が影響し合わないように、あえて男女別々に行い、一人ひとりの意見を忠実に確認することを心がけました。
彼らの要望と農業専門家の情報をもとに、最終的には、レタス、セロリ、ネギ、キレット、トウモロコシなど、もともと使われているものを栽培するためのリソースを提供することにしました。
”パッションに突き動かされる”
活動の幅を広げる上で苦労されたことはありますか?
課題はたくさんありました。
ひとつは、栽培する作物を決めることです。
当初は、対象とする土地の地質は岩石が多く、不毛な土壌が特徴のこの地域で育つものを基準に、タバスコ・チリペッパーを栽培することを検討していました。しかし、これらの作物を栽培するには、広大な土地の所有など多額の資金が必要であり、自分たちの資産や当時の調達額では到底賄いきれないと判断しました。
次に検討したのは、コーヒー豆の生産と、チョコレートでした。しかし、こちらも地理的な要因から栽培を断念せざるを得ませんでした。そこで、彼らがすでに育てているもの、特に前述したトウモロコシやキレットが最適解であることに気づいたのです。
どの作物を栽培するかが決まらなければ、他のどのアクションも起こせませんから、決断を急ぐ必要がありました。
2つ目に直面した課題は、コロナ禍です。物理的に移動ができなくなったため、主に “現地 “の協力者を通じて間接的に支援することになりました。
コロナ禍の影響もあり、温室栽培の構築などのプロジェクトを開始したのは、つい最近(2022年3月)です。しかし、実際に現地に足を運んでの支援を再開してからは、目覚ましい成果を上げることができています。
さらに、生活との両立も課題でした。
このプロジェクトを続けながら、フルタイムの仕事をし、2人の娘を育てなければなりません。
NPO活動には時間がいくらあっても足りません。ですから、他の生活とのバランスをとりながら、限られた時間の中で、活動の効果を最大限に発揮できるように行動しています。そのためには、アクティブな役員を集め、彼らに委ねながら活動することが重要です。
私は、このコミュニティを持続可能な成長するコミュニティへと変えていくことが使命だと考えています。ですから、このような困難があっても、私自身のモチベーションを維持することができるのです。
”活動を広げるために”
現在の目標は何ですか?
現在までに、この地域の1つの農村に持続可能な開発対策を提供し、2023年1月には第二の村への対策を開始する予定です。この村は、私たちが農業の解決策を提供するために訪れることに関心を示しています。最初の村の住民からは、水へのアクセスを改善するシステムの要望があり、資金が調達できるようになれば、追加のサブプロジェクトを通じて、このプロジェクトに改良型の浄水システムを追加していく予定です。
また、子どもたちの栄養管理や成長測定を通して健康教育を行い、コミュニティ全体の健康増進にも着手します。
そして、コミュニティハウジングのための土地を購入し、住宅を建設することで、正式に現地での拠点を確立していく予定です。
これらのプロジェクトを進めるためには、従来の資金源では活動を拡大することができません。”Sowing Opportunities “の知名度を上げることで、新たなスポンサーを見つけ、上記の活動を推進することを目指しています。
そのために、メディア取材や講演会などを行っています。
”日本の未来のために”
日本で社会貢献活動を実現しようとしている人たちにメッセージをお願いします。
自国の文化にとって何が必要かを考え、行動する。
例えば、日本では高齢化社会という問題があります。この問題に対して、一部の特定の人だけでなく、高校生や大学生などの若い人たちが問題解決のためのプロジェクトに参加し、貴重な文化を次世代に残すことを考えることが重要です。
日本人は、これまでに外敵から逆境に立たされても、また、人種やバックグラウンドの違いから内外の人々から異質と見なされても、耐え抜く強さと、世界が崩壊しても、それを再建する内なる回復力を持っていることを時の試練を通じて証明してきました。
ですから、日本人がもっとNPOを立ち上げたり、支援したりすることに興味を持つことは可能だと思います。
今回はアメリカでNPOを設立し、大学講師やジャーナリストと並行して情熱を追求するFernさんにお話しを伺いました。如何だったでしょうか。“Sowing Opportunities”の2022年活動報告と、アメリカ現地メディアによるインタビュー記事についても参照ください。質問やご意見があれば、ぜひお問合せフォームまで!記事が良かったらシェアをお願いします!
投稿者
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Boston SEEDs は B-SEEDs LLC (Delaware, US) 運営のオンラインメディアです。”Entrepreneurship Mindset”のカルチャーを世の中に更に浸透させるべく主にボストン在住の現役の MBA 生がボランティアで活動運営しています。 Note