ハーバード教育大学院で学んだ、これからの日本の学校教育への示唆

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ここ最近、多様性という言葉が色々な領域や文脈で取り上げられるようになってきています。筆者は、大学院留学のために渡米し、人生で初めて海外で生活・勉強するという経験をする中で、多様性の重要性や価値を身をもって感じると共に、そうした多様性を一つの学びの場が包摂していくことの難しさを痛感しました。多様なバックグラウンドをもつ学生の間の議論は奥行きがあり示唆に富んだ豊かな議論になることを日々感じる一方、様々な学生の個別のニーズ・関心も踏まえながら一つの授業を成立させる教授陣の難しさもすぐそばで見ることができました。本稿では、筆者がHarvard Graduate School of Education(ハーバード教育大学院)(アメリカ・ボストン)で学んだプロジェクトや理論、アメリカの学校を視察した経験などをもとに、日本の学校教育が多様化する子供たちを取り残すことなく、子供それぞれに合った教育を提供していくためのアイディアを紹介させていただきます。

 

ボストンのユニークな学校を見て – アメリカの実際の教育現場からの学び

 先日、ボストンの南部、ドーチェスター地区にある「Boston International High School & Newcomers Academy(ボストン・インターナショナル・ハイスクール・アンド・ニューカマーズ・アカデミー)」”(以下「BINcA」という。)を訪れる機会がありました。「インターナショナル」「ニューカマー」という名前が付されている通り、近年アメリカに移民として移り住んだ青年英語学習者とその家族を受け入れることをミッションとして掲げている高校です。しかも、ボストン学区の教育委員会が運営を行う公立学校であるというから驚きです。筆者のクラスメートがインターンシップを行っている学校ということで、日本にはないユニークな教育の実践を是非見たいと思い、無理を言って学校の様子を見させてもらいました。この学校に通う学生の多くは、ヒスパニック(59.1%)とアフリカ系アメリカン(31.1%)で、有色人種がその大半を占めています[1]。全ての学生は移民で、ドミニカ共和国、ホンジュラス、グアテマラ、ハイチ、ベトナムといった国の学生が多いのだそうです。

BINcAは移民の子供たちのためのユニークなカリキュラムを実践していました。BINcAの12年生(日本でいう高校3年生に相当する)は、卒業プロジェクトとして、「What supports the health and well-being for immigrant youth(移民の若者の健康や幸福を支えるものは何か?)」という課題に取り組んでいます。生徒は、このテーマに沿って好きなトピックを自ら選び、卒業前にプレゼンテーションを行うこととなっています。「健康や幸福」をテーマに選んだ理由をこの卒業プロジェクトを担当する先生に伺ったところ、「子供たちからこの課題をやりたいという声が上がった」のだそうです。

生徒がトピックをうまく選ぶことができるよう、ESL(”English as a Second Language”の略で、ノンネイティブ向けの英語の授業を意味します )の授業は、このテーマに関連する記事が教材として使用されていました。筆者が拝見したESLのクラスで取り扱われていた記事では、フィリピン系アメリカ人移民の女性の苦しみを扱ったものでした。移民としてのアメリカでの生活に苦悩した彼女は、青年期をフィリピンで過ごした後アメリカに移住した母親に悩みを相談するも、お互いの経験や文化的背景が異なるため、悩みをうまく共有することができず、苦労するという話でした。彼女はその後心理カウンセラーに相談に行こうとするも、フィリピンではあまり一般的でないことから、親から反対されるというエピソードも盛り込まれていました。先生が生徒に話を振ると、彼らは自分の悩みを親にうまく相談できず苦しんだ経験や、心理カウンセラーに相談することを親に言い出せなかった経験などを吐露していました。自らの経験や境遇に深く関連するテーマに、生徒たちが高いモチベーションを持ち、学びに向かっている姿勢がとても印象的でした。

ハーバード教育大学院で学んだ、これからの日本の学校教育への示唆

ESLの授業が終わると、スクールサイコロジストによる講義が行われました。スクールサイコロジストとは、教育心理学に関する知見を有し、子供の学習面・社会面・健康面・感情面の成長をサポートする専門家です。近隣の病院に勤めるサイコロジストが週に何日かBINcAで仕事をしているのだそうです。彼女自身も東欧から移民としてアメリカに渡ってきたバックグランドを有していました。この日のテーマは「健康に大きな影響を及ぼす社会的要因」で、まず、スクールサイコロジストから、新型コロナウイルス感染症の感染者や死亡者は白人と黒人・ヒスパニックで大きな差異があるというデータが示されると、生徒たちは、医療へのアクセスには経済的・人種的な格差が存在すること、また、エッセンシャルワーカーなど感染確率の高い職種に有色人種が多いことをその原因として指摘していました。ある生徒が「こうした現状を学ぶことで、行動を起こし、制度や社会を変革することができる」と述べていたのが記憶に深く残っています。彼らの経験や文化的背景に立脚した学習課題・教材を効果的に活用することで、BINcAの子供たちは「生きた学び」に積極的に取り組んでいました

このように、子供たちが置かれたコンテクストに応じた教育を目の当たりにして、筆者は大学院の授業で学んだ「culturally relevant pedagogy(文化に関連する指導法)」を思い浮かべました。ウィスコンシン大学マディソン校で教授を務めたラドソン – ビリングズによって提唱されたculturally relevant pedagogyは、アフリカ系の子供たちを指導する模範的教師の教育実践の分析・考察を通して明らかにされた指導法であり、「知識、技術、行動を伝えうる文化的な指示物を用いることで児童生徒が知的に、社会的に、情緒的に、政治的に能力を発揮することができるようにする指導法」であるとされています。ラドソン – ビリングズは、子供たちに馴染み深い文化を教育に取り入れることで、学問的成功のみならず、​​文化的な力や、社会や政治への意識の涵養につながると主張しています。移民の子供たちの背景に寄り添った社会・政治課題を中心に取り扱い、その改善に向けたアクションベースの議論を行うBINcAの教育を、大学院の授業で学んだculturally relevant pedagogyを地で行く実践として理解することができました。

 

日本の教育の今 – 日本の現状と多様化への取組

BINcAは、移民の子供たちのための学校として、彼らの可能性を最大限引き出すための教育実践を行っていました。日本でも多様な教育ニーズに応えるべく、教育機会を多様化する動きが少しずつ広がってきています。

例えば、文部科学省の実施する「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和3年度)」の速報値によると、2021年5月時点で、日本語指導が必要な児童生徒数は、日本国籍・外国籍合わせて58,353人となっており、約10年前の2010年の34,007人と比べて1.5倍に増加しています。そして、彼らの約9割に対して、個別に「特別の教育課程」を組むなどによって、なんらかの形で日本語指導等が行われています。「特別の教育課程」による日本語指導とは、児童生徒が日本語を使って学校生活を営み、学習に取り組むことができるよう、彼らが在籍するクラスの授業の一部に代わりに別の教室で行う教育の形態[2]で、いわゆる「取り出し指導」と呼ばれるものです。

また、不登校についていえば、文部科学省の「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、小・中学校で約20万人とここ数年増加傾向にあり、高校でも4万人をこえる生徒が不登校となっています。不登校の子供への支援については、2016年12月にいわゆる「教育機会確保法」という法律が定められ、国や地方自治体が、子供の状況に応じた学習活動等が行われるよう支援を行うことが求められました。そして、文部科学省が2019年に発出した通知において、「児童生徒の才能や能力に応じて、それぞれの可能性を伸ばせるよう、本人の希望を尊重した上で、場合によっては、教育支援センターや不登校特例校、ICTを活用した学習支援、フリースクール、中学校夜間学級での受入れなど、様々な関係機関等を活用し社会的自立への支援を行うこと」と明記されています。その他、特別支援学校や特別支援学級に通う子供の数も増えています。このように、子供たちのニーズは確実に多様化し、それに応えるように、日本教育のあり方も多様化が進みつつあります

 

多様性と画一化 – 多様性を包摂する教育に向けた課題と日本の目指す方向性

子供たちの状況に応じた様々な教育機会が提供され、自分に最適化された教育環境で学ぶようになるということは、一見素晴らしいことのように思えます。アメリカでも、ここ数十年、チャータースクール制度(*1)をはじめとして、保護者に学校選択の自由を認め、子供のニーズに応じた多様な教育環境を提供する動きが進められてきたと言えます。

*1 チャータースクールとは、州や学区の認可(チャーター)を受け、民間が公費によって運営を行う小・中・高等学校で、 州や学区の法令・規則の適用が免除され、一般の公立学校とは異なる方針・方法による教育の提供が可能である。ただし,教育的成果をテストの結果などにより定期的に評価され、一定の成果を挙げなければ場合によっては廃校となる。

一方で、チャータースクール制度は、各学校における人種的隔離を再度拡大させているとの批判もあります[3][4]。アメリカでは、人種という切り口で多様化の問題は長い間議論がなされています。1954年にブラウン対教育委員会事件判決(Brown v. Board of Education)で、公立学校における人種分離政策が法の下における平等を侵害しているとして違憲とされて以降、漸進的ではありますが、学区の再編や統廃合、スクールバスの運行等の工夫により、人種の融合が目指されてきました。しかし、チャータースクール制度によって保護者が自由に子供の通える学校を選択できるようになってくると、選択の結果として、人種の隔離が再度広がってきているのではないかと指摘されているのです。

もちろん、学校で人種的多様性を十分に担保できていないのは、チャータースクール制度のみに原因があるわけではありません。住居地域が人種ごとに大きく異なっていることも原因として挙げられます。どれだけ地域の学校が多様性を受け入れるための努力をしたところで、その地域に多様な人種が居住していなければ、人種的に多様な学校を実現することは困難を極めます。しかし、ここで強調しておきたいのは、多様な教育環境を提供し、自由な選択を認めることは、時として各学校レベルでの画一化につながる可能性があるという点です。

筆者が先日訪問した「Match Charter Public School」でも、人種的同一性の高い状況を目の当たりにしました。同校はBINcA同様にボストンの南部に位置するチャータースクールで、US News & World Reportが実施する高校ランキングでは州で17位(恵まれない生徒の成績では州で3位)に選ばれた学校です[5]。独自のカリキュラムを作成するためにフィッシュタンクラーニングという団体を立ち上げ、質の高い指導教材を作っていたり、独自の教職大学院を設置し、優秀な教員の確保・育成をおこなっていたりするなど、革新的な取組が有名な学校です。実際に学校の様子を見てみると、小学校低学年から子供たちに長時間の授業(朝7:30〜夕方4:00まで授業があり、途中で昼寝の時間もある)を提供したり、1クラスに複数の教師を配置するなど、学校が最大限のサポートを提供し、きめ細やかで丁寧な指導を実践していました。一方で、その生徒はアフリカ系アメリカンが47.5%、ヒスパニックが47.6%と有色人種がほとんどです[6]。そもそもボストン学区の生徒全体の人種構成として、アフリカ系アメリカンが29%、ヒスパニックが43%である一方、白人は15.2%と少なく[7]、さらにこの学校のあるエリアは有色人種の多く居住するエリアであることから、多様な子供が共に学ぶ場の確保という意味では、苦悩している様子がみてとれました。

ハーバード教育大学院で学んだ、これからの日本の学校教育への示唆

アメリカでは、こうした画一化の問題が人種という目に見える形で先鋭化してきたといえます。一方、日本では、人種的な同質性が比較的高いため、目に見えない形で進んできています。上述のデータに加え、文部科学省が実施する「平成30年度 子供の学習費調査」の結果によると、私立中学校に通う子供の家庭のうち、世帯年収が1000万円を超える家庭は52.3%もいるのに対し、公立中学校に通う子供の場合、世帯年収が1000万円を超える家庭は15.5%に過ぎません。裕福な家庭に生まれた子供は私立学校に進学し、私立学校に通う生徒は、親の年収という観点で言えば同質性の高い集団となっている可能性が考えられます。

特別な支援を必要とする子供たちは特別支援学校に通い、学校に通い続けることが難しくなってしまった子供たちはフリースクールなどに通い、裕福な家庭に生まれた子供たちは私立学校に通うーこうした形で、全体として多様な受け皿を作り、自由に選択できるようにすることが、個別の学校レベルで見た場合に画一化を進めてしまう可能性に留意すべきではないかと考えています。

教育環境における多様性が重要であるという前提に立てば、社会の多様化が進む今こそ、いわゆる一般的な公立学校が多様な生徒を包摂し、インクルーシブな学びの環境を提供していく必要性がこれまで以上に高まっていると言えるのではないでしょうか。(多様性の重要性に関する研究は多々あり、学力向上のみならず、人種間の理解や共感を高め、複雑な社会におけるシティズンシップの育成につながる[8]などの利点が研究によって明らかにされていますが、ここでは紙面の関係で詳しい議論の紹介は省略させていただきます。)つまり、いろんな家庭のさまざまな子供がごちゃ混ぜになって学校という場所で学ぶということの重要性に改めて注目すべきなのではないかと筆者は考えています。

そして、日本政府における直近の議論もこの方向性を明らかにしています。内閣府総合科学技術・イノベーション会議に設置された教育・人材育成ワーキンググループが2022年6月に取りまとめた「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」の中では、「家庭や経済力、認知の特性や興味などが異なる子供たちが「協働」で学ぶ機会の確保が公教育の肝」であると明記されています(概要は以下の図の通りで、図の右端に上記の記載がなされています)。

ハーバード教育大学院で学んだ、これからの日本の学校教育への示唆

​​図.Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ概要

繰り返しになりますが、多様な経済・文化・社会的背景や特性をもつ子供たちをいかに公立学校が包摂していくのかということが、令和の学校に求められている大きな役割であると考えています。だからといって、今すぐに一般的な公立学校以外の学校を廃止し、全ての子供を強制的に通わせることを提案するつもりはありません。内閣府でも議論がなされているように、これまでの日本の学校が同質性を前提とし、多くの子供たちを包摂できなかった点を踏まえ、伝統的な公立学校の変容が肝要です。

そこで、このような学校を実現するために日本の教育が目指している姿をまず紹介したいと思います。現在、文部科学省が目指しているのが、「個別最適な学び」と「協働的な学び」です。中央教育審議会が2021年初頭に取りまとめた答申では、「令和の日本型学校教育」の姿を「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」と定義し、その実現に向けた具体的な方策等について提言しています。

このうち、「個別最適な学び」については、教師が子供の特性や学習進度などに応じて柔軟に指導を行う「指導の個別化」と、子供が自身の興味・関心などに応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供する「学習の個性化」を組み合わせた概念だとされています。例えば前者には、日本語指導が必要な子供に個別のサポートを提供することが含まれ、BINcAが実践していた卒業プロジェクトは後者の学習の個性化に当たるものだと言えます。

そして、「個別最適な学び」が「孤立した学び」に陥らないよう、「協働的な学び」との両輪で進めることが提言されているところです。探究的な学習などの中で、子供同士や、地域の方々といった多様な他者と協働する経験を通して、「他者を価値のある存在として尊重し、(略)持続可能な社会の創り手となること」を目指すものです。

「個別最適な学び」と「協働的な学び」を積極的に進めていくことで、学校が様々な生徒が通う場として機能し、全ての子供たちに対して誰ひとり取り残さない教育を実現することが必要です。子供たちが自分の関心や進捗度合いに応じて、先生などから個別のサポートを受けながら、他の多様な生徒と協働しながら学ぶことは、子供たちの多様性に対応する教育の一つとして機能するものと考えています。

 

Success Planning(サクセス・プランニング) – 多様性を包摂するための具体的な取組事例

次に、筆者が大学院の授業で出会った、「Success Planning」という取組を紹介したいと思います。上述の令和の学校(日本)が目指しているのは、一つの教室の中で、それぞれの授業の中で、多様な生徒を包摂するための試みといえます。一方、生徒の多様性や現状のクラスの人数に鑑みると、こうした方向性を学校外に拡張し、生徒が一つの教室で学ぶ時間と、個別に教育やサポートを受ける時間を大胆に切り分けることで、よりダイバーシティを担保する学校を構想していくことも考えられるのではないかと考えています。つまり、教室内・教育課程内で先述の「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現した上で、それを拡張・補完するようなサポートを学校の支援により授業以外の時間に個別に提供していくという方法もあり得るのではないでしょうか。こうした観点から、「Success Planning」という取組について簡単に紹介させていただきます。

「Success Planning」は、前マサチューセッツ州教育長官で、ハーバード教育大学院の教授を務めるPaul Reville(ポール・レビル)が立ち上げた「Ed Redesign Lab(エド・リデザイン・ラボ)」という大学に付置された研究機関の下で行われているプロジェクトです。子供たち一人ひとりの興味や目標、ニーズに合わせて支援することで、すべての子供たちは成長することができるにも関わらず、多くの生徒が学業面で遅れをとり、成功に必要なサービスや機会を失っている現状に対し、解決策を提示しようとするものです。この点で上述の日本の教育政策と方向性をおおむね同じくするものと言えますが、そのアプローチが異なっています。

具体的には、まず、ナビゲーターと呼ばれる役割を設定します。ナビゲーターは子供やその家族と個人的な関係性を構築しつつ、定期的・継続的に学力や健康面・対人関係といった領域について子供それぞれの強みやニーズを定性的・定量的に把握します。ナビゲーターの役割を担うのは、地域によって異なりますが、カウンセラーや先生、学校外のサポーターなどが挙げられています[9]

こうした子供の総合的な理解に基づいて、子供の実情に応じて、200を超える連携パートナーのプログラムへの参加を個別に計画します。このパートナーには、学力面でのサポートを行う団体もあれば、メンタルヘルスのサポートを行うものや、フードバンクといった生活面での支援を行うプログラムも含まれており、教育のみならず福祉の領域も含め、子供に応じた個別のプランを作成することが可能となっています。子供たちは、学校での授業を受けた後、様々なプログラムから自分に合ったものに参加することができるようになっています。

ハーバード教育大学院で学んだ、これからの日本の学校教育への示唆

左の図は、この「Success Planning」のフレームワークを図示したものです。ナビゲーターが子供の状況を把握し、それに基づいた計画をたて、情報を継続的にプラットフォームに蓄積しながら、多様なパートナーと連携した包括的なサポートを提供しようとするものです。「Success Planning」のプロジェクトには、10程度の教育委員会が参画し、各地域でこの考え方に基づいた実践を展開しています。

もちろん、実際に導入するとなれば、コストの問題や、パートナープログラムの確保が課題となってきます。ニューヨーク州のポキプシー(Poughkeepsie)地域では、一つの学校を指定校としてこのプロジェクトを開始していますが、導入から最初の3年間は年間$31,000(約400万円)、その後は年間$10,000(約130万円)のコストがかかると見積もっています[10]。日本の全ての地域でこうした多様なプログラムの参加機会を確保するとなれば、パートナーの確保が難しい問題であることも認めざるを得ません。

しかし、多様化する社会を担う子供たちを育成するために、異なるニーズを抱える子供たちに必要なサポートを個別に提供すると同時に、彼らが共に学ぶことがますます重要になってきています。令和の学校教育のあり方を考える上で、教室内の「個別最適な学び」「協働的な学び」が不可欠ですが、より拡張した形で子供への個別のサポートを実現していくための一つの示唆として、「Success Planning」の取組を紹介させていただきました。

令和2年度「文部科学白書」でも指摘されているように、パンデミックを経て、学校は教育的な役割のみならず、「人と安全・安心につながることができる居場所・セーフティネットとして身体的、精神的な健康を保障するという福祉的な役割をも担っていることが再認識されました」。子供それぞれが必要とする教育・福祉的サポートを個別に提供するハブとして、日本の学校が機能していくことによって、逆説的ではありますが、子供たちの多様性をより包摂する学校の実現に繋がるのではないかと考えています。

*この記事は、すべて個人の意志、認識及び責任に基づいてなされるものであり、所属する/していた組織の見解を代表するものでは一切ありません。

如何だったでしょうか。吉田さんや私たちへの質問があれば、是非問い合わせフォームまでご連絡ください!

 

[1] https://profiles.doe.mass.edu/profiles/student.aspx?orgtypecode=6&fycode=2022&type=SCHOOL&orgcode=00350507

[2] https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/003/1341926.htm

[3] https://www.brookings.edu/research/new-evidence-on-school-choice-and-racially-segregated-schools/

[4] https://www.future-ed.org/work/school-choice-social-justice-what-the-research-shows/

[5] https://www.matchschool.org/news/2022/4/28/match-high-school-ranked-17th-best-high-school-in-massachusetts

[6] https://profiles.doe.mass.edu/profiles/student.aspx?orgcode=04690505&orgtypecode=6

[7] https://profiles.doe.mass.edu/general/general.aspx?topNavID=1&leftNavId=100&orgcode=00350000&orgtypecode=5

[8] https://tcf.org/content/report/how-racially-diverse-schools-and-classrooms-can-benefit-all-students/?agreed=1

[9] https://edredesign.org/files/success_planning_resources_for_navigators_guide_final_march_2021.pdf?m=1617031419

[10]https://www.kaltura.com/index.php/extwidget/preview/partner_id/1633051/uiconf_id/39713461/entry_id/1_v6v2rgev/embed/dynamic?

投稿者

  • 吉田欧太

    文部科学省や内閣官房で、学校の働き方改革やグローバル人材育成、地方大学の魅力化等の業務に従事。2021年に渡米し、ハーバード教育大学院にてアメリカの教育政策や定量分析の手法等について学び、2022年同大学院の修士課程を修了。

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