起業家教育No.1スクール最大ピッチイベントの裏側

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スタートアップ創出元年!

2022年初頭に岸田総理が宣言したことから、以前よりも頻繁に“スタートアップ”や“起業家(アントレプレナー)”といった言葉をメディアや街中で目にすることが増えました。皆さんの中には、起業への想いが高まった方もおられるのではないでしょうか?

しかし、どうやって起業するのでしょう?資金集めの方法は?投資家を見つける?そんな疑問にお答えすべく、今回は、アーリーステージの起業家の多くが通る“ピッチ”について、ボストンにあるバブソン大学MBAにてピッチイベントを主催し、1人の起業家としてピッチイベントにも参加した安江さんにお話を伺いました!

※安江さんの経歴は記事末尾を参照ください

 


 

そもそも“ピッチ”って何?

ピッチはプレゼンテーションの一種ですが、より短時間でより簡潔にビジネスアイデアを投資家に売り込むことを主眼に置いています。

起業家教育の分野で世界ナンバーワンのバブソン大学では、毎授業、生徒に1分間のピッチをさせ、教授だけでなく他の生徒からもフィードバックを受ける授業があります。もちろん場数を踏めば踏むほど、内容が洗練され、より流暢に伝えられるようになるのですが、一方で投資家は大量のピッチを聞いており、いかに印象に残るストーリー構成にするか、情熱をもって伝えられるか、が重要になってきます。

実際に取り組んでみると、実はピッチを作り込む過程が起業家にとって大切なのではないかと感じています。短時間で簡潔に伝えることを考えれば考える程、解決したい課題やビジネスアイデアのコアの部分を強制的に明確化することになるため、ビジネスの方向性を決める際にチーム内で意見が割れた時や、判断を迷う局面において、ピッチをすることで常に原点に立ち返らせてくれる役割があります。

起業家教育No.1スクール最大ピッチイベントの裏側

 

ピッチイベントって何するの?

私が所属するBabson Acceleration Club(バブソン・アクセラレーション・クラブ)は、バブソン大学の現役MBA生が主体となり、ビジネスアイデアを持つ生徒を投資家につなぐ活動をしています。

主な活動は、バブソン生を対象にしたピッチイベントを年に1−2回開催することです。ピッチイベントの目的は、ビジネスの実現を目指す学生に金銭面及び必要なネットワークやリソースを提供することで、彼らの起業を成功に導くことです。

イベント参加者は、教授や現役のVC(ベンチャーキャピタリスト)との質疑応答やフィードバックを通じて、ビジネスアイデアを洗練する機会を得ます。さらに、高評価を得たビジネスアイデアについては、最大で3万ドル(約390万円, 2022年5月現在)の投資を受けることができます

また、主催者側も、ピッチイベントを通じて、自らが投資家目線でアイデアを審議し、投資家に売り込む作業を手伝うため、VC等の投資家を目指している生徒はもちろん、起業家を目指す生徒にとっても非常に参考になるイベントです。

VCにとっても、将来の起業家を発掘する窓口を広げるメリットを感じていただいており、無償のコンサルセッションやピッチ勉強会を提供してもらうなど、有意義なエコシステムを構築できています。

昨年度はコロナの影響により完全オンラインでの開催となってしまいましたが、今年は3月にインパーソン主体のハイブリット型のイベントが開催でき、応募者総数25社、オンライン含め100名を超える観覧者にご参加いただきました。

起業家教育No.1スクール最大ピッチイベントの裏側

 

ファイナリスト/Winnerの概要/評価ポイントについて

イベントは以下のステップで実施しました。

1、書類審査(一次選考)

応募者数25社の中からそれぞれのビジネスアイデアの概要を記した書類やプレゼン資料を提出いただき、実際にイベントでピッチいただく10社を選定しました。

この第一次選考プロセスはMBA生のみで行い、一定の選定基準に沿ってそれぞれのアイデアを点数化します。選定基準については、実際のVC等の投資家がスタートアップを審査する項目を参考に策定しており、私たちは特に実現性の高さを比較的重要視して評価するようにしています実現性の高さというのは、問題点を解決したい起業家の動機やモチベーションの高さ、適切な人材を集められているのか、実現に向けた具体的なアクションプランが描けているかを見ているようにしています。

既にビジネスアイデアの具現化ができている応募者は審査慣れしており、評価されがちな項目を網羅した資料が出来上がっているため、比較的高い評価をされる傾向にあるので、最終的に起業フェーズを考慮に入れつつ、また著しく業界に偏りが生じないよう調整を行い、一次選考通過者を決定します。今回の応募者は、コロナの影響を受けてか、比較的ヘルスケア関連のアイデアが多かった印象です。

2、ピッチコンペティション(二次選考)

二次選考は、教授と現役VC投資家から構成された5名の審査員及び100名を超える観覧者の前で、1つのアイデアにつき3分間のピッチと7分間の質疑応答(審査員のみ)を加えた合計10分一枠で審査します。

主にスクリーンにプレゼン資料の投影をしてピッチしていただきましたが、実際にプロトタイプを披露したアイデアもあります。限られた時間の中でアイデアをアピールする必要があるため、いかに審査員に印象付けるかが肝要になります。

3、審査

約2時間半のイベント終了後、5名の審査員同士で協議し、10社の中から2社を選定します。毎年審査員が変わるため、2次選考の審査基準は一定ではありませんが、今年度はいかに広いマーケットをターゲットにしているか、が大きな審査基準となり、2次選考通過者は、健康志向の時代の流れを汲み取った代替肉のアイデア成長著しいアフリカ市場において中小企業をサポートするアイデアの2社となりました。当ピッチの審査員が強調していたのは、3分間という短いピッチの中では、実際にアイデアの良し悪しをファイナンスやオペレーションに至るまで網羅的に判断することは不可能であり、むしろ起業のバックグラウンドにあるストーリーを評価したい、とのことでした。当意見に対しては賛否両論あると思います。つまり、ピッチイベントの目的やそれぞれの投資家の審査基準によって、投資家に対して与えるインパクトの大きさや評価されるアイデアは大きく異なるため、“選考される”というマインドでピッチに参加するのではなく、投資家とのマッチングやフィードバックを得られる場として活用する程度の気持ちで臨むことが重要ではないでしょうか。

4、ネットワーキング

イベント終了後、審査員、応募者、観覧者のイベント参加者全員が参加できる軽食付きの交流の場を設け、二次選考通過者を発表しました。選考に漏れた応募者も審査員や観覧者と交流することでフィードバックを受けることができるため、ビジネスアイデアの改善に役立てることが可能です。

5、投資家稟議

二次選考通過者には、具体的な事業計画書を提出してもらい、主催者側でリスクを考慮した出資額と投資リターンを算出し、投資家向けの稟議書を作成します。

作成の過程で気になるポイントや将来の見立てを確認するために、応募者に複数回インタビューを実施し、投資家からの質疑応答に備えます。

稟議書を投資家に提出後、複数回のやりとりを行い、最終的な出資額及び出資条件のすり合わせを行います。契約書は一般的な転換社債の一種であるSAFE(Simple Agreement for Future Equity)を使用し、投資家は将来の株式を取得する権利を有することになります。

 

起業家からみたピッチイベントとは?

起業家の一人としても当イベントに参加し、二次選考のファイナリストとしてピッチする機会をいただきました。もちろん、Winnerとなれば大きな自信と資金を手に入れることができるのですが、ピッチの準備にあたり、共同創業者との間で濃密な議論ができ、アイデアの方向性のすり合わせができたことと、外部からのフィードバックによってアイデアが進化するプロセスを経験できたことが何よりの収穫です。

また、アイデアを披露することにより、他の起業家や投資家とのコミュニケーションが生まれ、急速なネットワークの広がりを感じました。お陰で他のピッチイベントや投資家の紹介を受けることができ、アイデアの具現化が加速した印象です。

当初はアイデアを披露することに一種の恥ずかしさがあったのですが、ピッチをする、という1つのゴールに向け高速にトライ&エラーを繰り返しながら商品開発をする、いわゆるアジャイル型のプロセスを経験でき、アメリカのスタートアップのスピード感を体感しました。特に、誰に対するサービスなのか、というビジネスプランの根幹についてチーム内で意見が分かれたため、実際に第三者インタビューやマーケティング調査をしながら煮詰める作業を通じて、短期間でビジネスプランが洗練化していくプロセスは日本では経験できなかったので、とても印象に残っています。

近年、日本でも起業家精神が少しずつ普及しつつあり、コロナ禍において、遠隔地でもオンラインで気軽に繋がることができる環境や、副業という形で自らのアイデアや能力を発揮する場が増えてきていると思います。また、クラウドファンディング等の資金調達手法の多様化が進んできていることは感じております。ただ、アメリカのようにアイデアを具現化するまでの総合的な機会がまだまだ少ない気がします。

一日本の起業家として、今回ご紹介したピッチイベントのような、アイデアを気軽に披露し、フィードバックを得ながら商品やサービスを高速に実現化する機会を増やすことができれば、起業家とアイデアの増大、投資機会の広がり、そして日本発のスタートアップが海外で活躍し、世界における日本の存在感の発揮とより良い社会の実現に大きく寄与すると痛感しました。

 


今回は”ピッチ”イベントについて安江さんにお話しを伺いました。如何だったでしょうか?質問やご意見あれば、是非お問い合わせフォームをご活用ください!!記事が良かったらシェアをお願いします!

投稿者

  • 安江 建吾

    日本の不動産デベロッパーに勤務し、主に分譲・賃貸マンションの企画開発業務に従事。米国での駐在経験を経て、現在アメリカ・ボストンにあるバブソン大学で主にアントレプレナーシップを学びながらMBA取得中。在学中に起業を進めており、教育・サステナビリティ分野における事業の立ち上げ・拡大に向け邁進。

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