第一回 ボストンから日本へ インパクト投資の今

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今回はボストン屈指の名門校ハーバード大学 ビジネススクール(以下、HBS)を卒業し、インパクト投資に特化したVCファンド「GLINインパクトキャピタル」を創業された中村さんにインタビューしました。アメリカと日本両国でインパクト投資経験がある中村さんだからこその示唆がある貴重なインタビューでした。インパクト投資のトレンド、ボストンから得た学びなど、色々聞いていきましょう!

 

まずは簡単な自己紹介をお願いします。

中村です。日本の大学を卒業後、総合商社に勤めていました。その後、社費でHBSに留学し商社へ戻りましたが、自分のやりたい事を叶えるには環境が不十分であり、2020年にGLINを創業しました。

現在、GLINは創業者含め4名のメンバーと心強いアドバイザー3名も迎え、二つの事業をしております。一つは、投資家から資金を調達してファンド運営を行う投資事業、もう一つは企業へのコンサルティング事業です。どちらもインパクト投資という軸を持って運営しております。

第一回 ボストンから日本へ インパクト投資の今

中村将人

CEO at GLIN Impact Capital

総合商社にて途上国事業、AI/IoT新規事業開発、ベンチャー投資・協業検討、DXをリード。インドネシア駐在を経てインパクト/ESG投資・社会起業論を学ぶ為にHarvard Business School(HBS) に留学、同校Impact Investing Club Presidentを務める。インパクト投資の先駆者である米国Acumen Fundにてインパクト/ESG投資に従事。上場企業ESG対応支援アドバイザリー多数実施。ハーバード大学経営大学院修了。

 

 

GLINを設立する事になったターニングポイントをお伺いしたいです。

2015年頃かな。総合商社で勤務している時、欧米の投資家がインドネシア周辺のスタートアップに利益目的とソーシャルインパクトの二軸で投資をするパターンが出てき始めて。それを横で見てて面白そうだなーと思ったんですね。で、それを勉強して自分のキャリアにしたいなーと思って、海外のビジネススクールに行こうかと思い始めました。それが一つ目のターニングポイントです。

二つ目がHBSです。色々と知見を深めている中で、卒業後の自分のキャリアを考えていたんですね。一つは、商社に戻ってインパクト投資を広める。もう一つは、海外の投資会社に就職してそこで経験を積むプランです。

まず、商社に戻るプランですが、自分が行きたいと思っていた部署に行く事が出来なさそうだったんですね。それで、海外の投資会社プランを考えていたんですけど、自分で何か新しく立ち上げた方が良いんじゃないかと思い始めて。自分のバックグラウンドやネットワーク、日本の今の状況を考えると、自分が日本でインパクト投資のために投資家とスタートアップを繋げる方が、よりこの流れに貢献できるんじゃないかなって思ったんです。それで、日本でのGLIN立ち上げに至ったというのはあります。

 

アメリカでインパクト投資はどれぐらい浸透しているのですか。

2020年時点で、世界で80兆円程度のお金がインパクト投資に流れており、主に欧米がその流れを牽引しています。これに対して日本のインパクト投資は4,000億円程度で、世界の2%程度の金額を動かしている状況です。なので、ファンドの数や規模という点ではそれぐらいの差が出るぐらい浸透しています。

実際、日本でもインパクト投資は発展しているのですが、アメリカで議論されているインパクト投資の課題感と日本の課題感ではステージの明らかな違いが見受けられます。

アメリカではインパクト投資自体がすでに20年ぐらい前から始まっています。最初はよく分からないNPO団体がそれらしい事をし始めて、周りも色眼鏡で見ていましたが、それがどんどんメインストリームになって、もうやらなきゃいけないものだという所まで浸透しています。

今は、インパクト投資を効果的に行うためにはどのような手法ですべきか、みたいな議論が盛んですね。ノウハウとかやり方のコンセンサスビルディングみたいなものが進んでいて、さらにそれをブラッシュアップしていこうというステージ。

翻って日本では、「そもそもなんでインパクト投資をやる必要があるのか」という最初の議論ステージで疑問に思っている人がまだまだ多い印象です。なので、日本から見れば、アメリカは3つ4つぐらい前進したステージで議論が進んでいるっていう感じです。こうした状況が、ようやく去年、一昨年ぐらいから徐々に変わり始めていると感じています。

潮目が変わった要素は様々あるのですが、一つ大きな要素は「この考え方が欧米から輸入されてきたものである」からだと思っています。ビジネス、産業界全般を見回してもそうだと思いますが、日本はカルチャーとして新しい事を切り開く/新しい流れを作るポジションにはいないんですよね。それを切り開くのはアメリカかヨーロッパ、そしてそれに続くのが日本という構図だと思います。インパクト投資は世界で非常に高い盛り上がりを見せているので、日本企業でも「この流れには乗らないと」というマインドが働いているのだと思います。

もう一つの要素は、世代の交代だと思います。これも欧米、国連の影響が大きいのですがミレニアル世代、Z世代はソーシャルイシューに対しての意識が高い。SDGs関連に関しても意識が高いので、その意識の高まりが企業に方向づけをさせているという側面はあると思います。

第一回 ボストンから日本へ インパクト投資の今

 

ステージが異なることで投資判断が遅れることが想像できるのですが、その他に影響していることはありますか?

少し専門的な話になっちゃうんですけど、アメリカでは投資のノウハウのところが圧倒的に進歩していると思います。例えばインパクト投資を定量評価する手法はもちろんやっており、その他に投資判断に関しても例えば投資の際に使用されるIRRとは別にインパクトハードルレートなどの判断基準を持っている。その他にも投資契約をする際にインパクト条項を設けてインパクト評価部分のコミットメントを示す、などがアメリカでは直近で使用されています。

翻って日本ですと、もちろんインパクト投資なので企業評価はするものの、ハードルレートなどの定量的ロジックや投資契約書への盛り込みは未だ使用されているケースを見かけないです。

またアメリカでは、ファンドマネージャーへのインセンティブにも、ファイナンシャルリターンだけでなく、インパクトリターンはどれぐらい合ったのかという点も考慮し、報酬を連動させたりしています。このような新しい取組があることで、3、4ステージ先に進んでいると言えるのだと思います。

 

意地悪な質問かもですが、「欧米で流行っている」というのがトリガーポイントであるなら、日本で行われているインパクト投資は本質的な課題に意識が向いていないものも散見されるという事になるのでしょうか?

難しい質問ですね。ただ、私が言えるのはGLINを通じ様々な業界の方とお話しするのですが、インパクト投資を担当されている方々は企業の大小問わずめちゃくちゃパッションがあって。

特に金融機関の方をお仕事する機会が多いのですが、自分達が金融の未来を変えていくんだ、サステナブルファイナンスを広げていくんだという強い思いを持った人はたくさんいらっしゃるんですよね。もちろん、キッカケは「海外で起こっているムーブメント」だったのかもしれませんが、その本質を理解して納得してインパクト投資に力を注いでいるのだと思います。

では、そんな彼らがいるのに何故まだまだ広がりきっていないのか、という点があると思いますが、日本での成功事例作りが求められているというのが大きな障害だと思います。

先ほどの「新しい事を切り開くカルチャーではない」という点にもかかってくるのですが、全く事例のないものに取り組みなさいというよりはすでに成功事例があるものを少しツイストして取り組みなさいという考えが強いと思います。なので、興味を持っている人は急激に増えているのですが、投資手法が分からない、どれが正しいのか分からないという不安が先行して、そこを伴走して解決する人が求められているのだと思います。

もう少し「先行事例が無い事で起こる弊害」を具体的に説明すると、投資にはアセットオーナー(お金を出す人 金融機関など)、LP (資産を運用する人 VCなど)、スタートアップ(資産を受ける人)というプレーヤーがいます。

アセットオーナーはインパクト投資に興味を持っている人が多いのですが、VCでも成功事例を持った組織は少ない、なぜなら新しい分野だからです。他方、スタートアップはSDGsなど世の中の流れをいち早く取り込みビジネスをスタートしている。結局、アセットオーナーのお金は先行事例がある海外のVCに流れ、スタートアップも海外から資金を調達しています。

そうなると日本でインパクト投資に強いファンド運営の文化は成熟が遅れるんですよね。お金が集まらないと投資ができない、投資ができないと成功事例が生まれない、結局VCも別のテーマに手を出さざるを得ない。そんな循環がインパクト投資の浸透率向上への弊害になっているのだと推察します。ですので、GLINはこのデッドロック状態に陥っているファンド運営の部分を改善すべく活動しています。

活動としては、まずはファンドを立ち上げました。ファーストファンドで実績がないのでどうしても大きなものを最初から作ることはできないのですが、私たちのビジョンに賛同頂いた個人投資家を中心に出資を頂いてファンドを形成しています。

現在は日本とアメリカで計2社ほど出資させて頂いて、お陰様で出資を検討してほしいというスタートアップからの声は多く頂いています。この1号ファンドで、3年ちょっとぐらいやったときにトラックレコードが出てきますので、次は2号ファンドをより大きな規模で形成したいと考えています。

 

如何だったでしょうか。次回は日本だからこそできるインパクト投資の領域、ボストンから得た大切な学びをお送りします!中村さんや私たちへの質問があれば、是非お問合せフォームまで!

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